既存PLCデータだけで予兆保全できる?新規センサーを付ける前に確認する5項目

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設備の予兆保全を検討すると、「まず振動センサーや温度センサーを追加しよう」という話になりがちです。

しかし、既存設備のPLCには、モーター電流、圧力、温度、サイクルタイム、速度、アラーム、運転状態など、設備状態と関係するデータがすでに存在している場合があります。

そのため、新しいセンサーを購入する前に、まず既存PLCデータでどこまで状態変化を確認できるかを調べる方法があります。

ただし、「PLCにデータがある」ことと「そのデータで故障兆候を捉えられる」ことは同じではありません。

対象とする故障・劣化現象と取得データに関係があるか、必要な時間分解能で履歴が残っているか、運転条件の違いを区別できるかなどを確認する必要があります。

本記事では、既存PLCデータから予兆保全・状態監視の成立性を確認し、不足する情報だけ追加計測するための考え方を整理します。

PLCデータだけで予兆保全できるケースはある

予兆保全では、設備の状態変化を時系列データから確認し、点検や部品交換などの保全判断へつなげます。

利用できるデータは振動だけではありません。対象設備や故障モードによっては、電流、温度、圧力、速度、処理時間、設備アラーム等に状態変化が表れる場合があります。

例えば誘導電動機では、モーター電流を用いた状態監視・故障診断に関する研究が行われています(Yakhni et al., 2023)。ただし、電流を取得しているだけであらゆる故障を判別できるという意味ではありません。

まず「何の故障・劣化を確認したいのか」を決め、その現象によってどの物理量や工程値が変化する可能性があるかを考える必要があります。

「PLCに値がある」と「分析に使える」は別

PLCのモニター画面で電流や圧力を確認できても、そのまま時系列分析に利用できるとは限りません。

PLC内部では短い周期で値が更新されていても、履歴を保存するシステムでは1分ごと、10分ごとなど別の周期で記録されている場合があります。短時間に発生する変化を確認したい場合には、履歴側の時間分解能では情報が不足する可能性があります。

また、保存期間が短い、欠損がある、タグの単位や意味が不明、設備の時刻と保全記録の時刻が一致しない、といった問題も分析前に確認する必要があります。

CONDITION MONITORING APPROACH
Sensor First
予兆保全を検討する
センサーを追加する
データを蓄積する
分析方法を検討する
Existing Data First
対象故障モードを整理する
必要な状態変化を考える
既存PLCタグを確認する
不足する情報だけ追加計測する

既存PLCデータを確認する5つのポイント

1. 対象故障モードとの関係

最初に決めるのはセンサーではなく、対象とする故障モードです。

例えば「ポンプを予兆保全したい」だけでは対象が広すぎます。どの部位のどの劣化や異常を確認したいのかを整理し、その際に電流、圧力、温度等へ変化が現れる可能性があるかを考えます。

関係を説明できない変数を大量に集めるより、設備メカニズムと故障モードから候補となる信号を絞る方が、PoCの目的を明確にしやすくなります。

2. 必要な信号がPLCに存在するか

次にPLCのタグ一覧を確認します。

  • モーター電流
  • 圧力
  • 温度
  • 速度・回転数
  • 設定値
  • サイクルタイム
  • 設備運転・停止状態
  • アラームコード

などが候補です。

タグ名だけでなく、その値が何を意味するか、単位、スケーリング、計測位置も確認します。同じ「圧力」でも計測位置が異なれば解釈は変わります。

3. 更新周期・保存周期・保存期間は十分か

設備状態の変化を確認するには、時間軸が重要です。

ここでは「PLC内部で値が更新される周期」と「履歴として保存される周期」を分けて確認します。

例えばPLC内部では短周期で更新されていても、上位システムには一定時間ごとの代表値しか保存されていない場合があります。確認したい現象より保存周期が粗ければ、分析に必要な変化が失われている可能性があります。

逆に、高頻度データであれば必ず有効というわけでもありません。対象現象に応じて必要な時間分解能を考える必要があります。

4. 運転条件を区別できるか

電流や圧力が変化していても、それだけで設備劣化とは判断できません。

生産品種、負荷、設定速度、流量、起動・定常・停止といった運転条件が変われば、正常設備でも値は変動します。

そのため、設備状態を比較するときは、できるだけ近い運転条件のデータを比較できるようにします。

予兆保全のためのデータ収集では、設備の状態量だけでなく、その設備がどのような条件で動いていたかを一緒に記録することが重要です。

5. 保全履歴と時刻を対応付けられるか

PLCデータだけを見ても、その変化が設備状態と関係していたのか判断しにくい場合があります。

そこで、故障、停止、点検、調整、部品交換等の履歴を時系列データへ対応付けます。

例えば「部品交換前に電流やサイクルタイムが徐々に変化していたか」「点検後に値が基準状態へ戻ったか」といった確認ができます。

状態監視技術は、異常を検出するモデルだけでなく、実際の保全プロセスや設備運用の中で評価することが重要です(Dadfarnia et al., 2025)。

PLC DATA VALIDITY CHECK
Failure Mode
何を捉えるか
対象とする故障・劣化現象を明確にする。
Signal
何が変わるか
電流、圧力、温度、処理時間等との関係を考える。
Sampling / Logging
変化を残せるか
更新周期、保存周期、保存期間を確認する。
Operating Condition
条件を区別できるか
品種、負荷、速度、運転状態等を確認する。
Maintenance History
保全と結び付けられるか
故障、点検、交換履歴と時刻を対応させる。

電流・圧力だけで状態変化を見る架空例

ここでは説明用の架空設備を考えます。

PLCには、設備運転状態、生産品種、設定速度、モーター電流、ライン圧力、サイクルタイム、アラームコードが保存されているとします。別途、点検日、部品交換日、故障・停止記録も残っています。

新しい振動センサーを設置する前に、まず「設備の抵抗増加や動作状態の変化等に伴い、同程度の運転条件でも電流、圧力、サイクルタイムに継続的な変化が現れる可能性があるか」という仮説を確認します。

分析では、同一または近い生産品種、近い負荷、同じ運転状態などに条件をそろえます。

  • モーター電流の代表値・ばらつき・長期変化
  • 圧力の代表値・変動幅
  • サイクルタイムの推移
  • アラーム発生状況
  • 点検・部品交換前後の変化

を確認します。

ここで確認するのは、電流上昇や圧力低下を特定故障と断定することではありません。既存データの中に、保全上確認する価値のある状態変化が含まれているかを見る一次分析です。

既存PLCデータでは不足するケース

既存データを分析しても、対象故障モードに必要な情報を十分に得られない場合があります。

例えば対象とする回転部の劣化について、電流・圧力には明確な変化が見られず、振動特性を直接確認する必要があると判断されるケースです。

この場合も、すぐに全設備へ振動センサーを追加する必要はありません。

PoC対象設備と期間を限定して振動を追加取得し、既存PLCデータと組み合わせて確認する方法があります。

確認したいこと既存データ既存データで分かること不足時の候補
負荷・動作状態の変化電流、圧力、サイクルタイム同条件での長期的な変化必要に応じて別の状態量を追加
回転部の状態電流のみ負荷等との関係を一次確認振動等の追加計測を検討
温度上昇温度タグなし直接確認できない温度計測を限定的に追加
保全前後の変化PLCログ+交換記録交換前後の時系列比較履歴精度が不足すれば記録方法を改善

故障データが少ない場合はどうするか

故障データが少ない場合、故障状態を大量に学習させる方法には制約があります。

一方で、正常稼働時のデータから運転条件ごとの通常状態を把握し、以前とは異なる状態変化が出ていないかを確認するところから始められる場合があります。

ただし、「正常状態から外れた」ことと「故障の予兆」は同義ではありません。

品種変更、負荷変化、設定変更、周囲環境などでもデータは変化します。異常らしい変化が見つかった場合には、設備構造、点検結果、保全担当者の知見等と照らし合わせて解釈する必要があります。

PLCから新たにデータを取り出す際の注意

PLCのデータが履歴として保存されておらず、新たに分析環境へ取得する場合には、データ分析だけでなくOT(Operational Technology:製造設備等を監視・制御する技術環境)の安全性も考慮します。

OTでは一般的なITシステム以上に、設備の可用性、リアルタイム性、安全性等が重要になる場合があります。分析目的のデータ取得によって制御通信や設備運転へ影響を与えない構成、アクセス権限、ネットワーク分離等を確認する必要があります(Stouffer et al., 2023)。

「分析したいからPLCへ直接自由にアクセスする」のではなく、既存のデータ収集基盤や安全な取得方法を含めて設計します。

既存PLCデータだけでPoCできるかチェックリスト

確認項目確認内容
故障モード何の故障・劣化を捉えたいか説明できるか
信号故障前に何の物理量・工程値が変化する可能性があるか
PLCタグ関連する電流・圧力・温度等のタグが存在するか
意味・単位タグの定義、単位、計測位置が分かるか
保存十分な期間の時系列履歴が存在するか
時間分解能確認したい現象に対して保存周期が十分か
運転条件品種、負荷、速度、起動・停止状態等を区別できるか
時刻他データや保全履歴と時刻を対応付けられるか
保全履歴点検、交換、故障、修理の記録があるか
追加計測既存データで不足する情報と追加する目的を説明できるか

新しいセンサーを購入する前に、対象設備について「何の故障・劣化を捉えたいか」「その際に電流・圧力・サイクルタイム等へ変化が現れる可能性があるか」「その変数を必要な周期で保存できているか」の3点を確認してみてください。

既存PLCデータで確認できる範囲と、追加計測が必要な範囲を分けやすくなります。

まとめ

予兆保全を始める際、新規センサーの設置を最初の前提にする必要はありません。

まず対象故障モードを整理し、故障・劣化によって変化する可能性がある物理量や工程値を考えます。そのうえで既存PLCに関連データがあるか、必要な周期・期間で履歴が残っているか、運転条件と保全履歴を対応付けられるかを確認します。

既存データだけで状態変化を十分に確認できれば、そのデータを活用してPoCを進められる可能性があります。一方、対象故障モードに必要な物理量や時間分解能が不足する場合には、その不足を補う目的で追加センサーを検討します。

重要なのは、「センサーを付けるか付けないか」を先に決めるのではなく、既存データで何が分かり、何が分からないのかを確認してから計測投資を判断することです。

SCI総合研究所株式会社のMIRASENTでは、最初から新規センサーの導入を前提とせず、既存のPLC、設備ログ、点検記録、保全履歴等を確認し、現在のデータでどこまで設備状態を分析できるかを整理します。

そのうえで、対象故障モードの確認に情報が不足する場合のみ追加計測の候補を検討します。「PLCには電流や圧力が残っているが予兆保全に使えるか分からない」「新規センサー投資の前に既存データで成立性を確認したい」といった段階から相談できます。

参考文献

  • Dadfarnia, M., Sharp, M. and Herrmann, J. 2025. Comprehensive evaluations of condition monitoring-based technologies in industrial maintenance: A systematic review. Journal of Manufacturing Systems. Vol. 82. pp. 449-477. DOI: 10.1016/j.jmsy.2025.06.015.
  • Yakhni, M. F. et al. 2023. Variable speed induction motors’ fault detection based on transient motor current signatures analysis: A review. Mechanical Systems and Signal Processing. Vol. 184. Article 109737. DOI: 10.1016/j.ymssp.2022.109737.
  • Stouffer, K. et al. 2023. Guide to Operational Technology (OT) Security. National Institute of Standards and Technology. NIST Special Publication 800-82 Rev. 3. DOI: 10.6028/NIST.SP.800-82r3.