設備の予兆保全を始めるとき、「振動・温度・電流など、取得できそうなデータを一通り集めよう」と考えることがあります。
確かに複数のセンサーを使うことで得られる情報は増えます。一方、工場内の多くの設備へ一律にセンサーを追加すると、導入費用だけでなく、配線、通信、データ保存、センサー自体の保守なども必要になります。
そこで重要になるのが、「何を測れるか」ではなく「何の故障・劣化を捉えたいか」から考えることです。
対象とする故障モードを整理し、故障前にどのような物理現象が起こる可能性があるかを考え、その現象を捉えるために必要な計測量を決めます。そのうえで既存設備データを確認し、不足する情報だけ追加計測します。
本記事では、ベアリングの劣化を例に、故障モードから予兆保全用センサー・計測項目を選ぶ考え方を解説します。
予兆保全で「とりあえずセンサーを増やす」必要はない
予兆保全で使われるデータには、振動、温度、電流、圧力、流量、音響、設備ログなどがあります。
ただし、それぞれの計測量が持っている情報は同じではありません。振動は回転・接触・衝撃等の機械的な状態変化、電流はモーターの電気的状態や負荷変化、温度は摩擦・過熱等、圧力や流量は流体系の変化を捉える材料になる場合があります。
そのため、「予兆保全だから振動センサーを付ける」「念のため温度も電流も取る」という順序だけでは、必要以上のデータを取得したり、逆に本当に必要な物理量を取得できなかったりする可能性があります。
予兆保全用センサーには一種類ですべての故障へ対応できるものはなく、対象とする故障とセンサーの特徴を対応させる必要があります(Murphy, 2020)。
センサーではなく故障モードから考える
予兆保全の対象を整理するときは、「モーターを監視する」「ポンプを監視する」という設備単位だけでなく、どの故障モードを対象とするかまで具体化します。
故障モードとは、軸受損傷、アンバランス、ミスアライメント、過熱、漏れなど、「どのような形で設備が正常状態から外れるか」を表すものです。
例えば同じモーターでも、ベアリングの劣化を確認したい場合と、巻線・電源系の異常を確認したい場合では、優先して見る計測量は同じとは限りません。
NISTも、保全上の意思決定によって必要となるデータや粒度は異なり、意思決定を支える適切なデータを選ぶことが重要だと整理しています(Sharp et al., 2019)。
故障モードから計測量を決める5つのステップ
1. 対象設備と故障モードを決める
まず、「どの設備で」「何の故障・劣化を確認したいのか」を決めます。
例えば「モーターの予兆保全」ではなく、「モーターに接続された回転軸のベアリング劣化」のように対象を絞ります。
現場の点検記録、交換履歴、故障履歴、メーカー資料、設備構造なども参考にしながら、保全上確認したい現象を具体化します。
2. 故障前に起こる物理現象を整理する
次に、その故障によって何が物理的に変化する可能性があるかを考えます。
ベアリングに局所的な損傷が生じると、転動体と損傷部の接触等によって振動や音響に特徴的な変化が現れる場合があります。転がり軸受の故障診断では振動・音響計測が長く研究されてきました(Tandon and Choudhury, 1999)。
一方、摩擦や負荷変化によって温度が変化する場合もあり、一つの故障モードに複数の物理現象が関係することがあります。
3. 物理現象に対応する計測量を決める
物理現象が整理できたら、何を計測すればその変化を確認できるか考えます。
- 機械的な振動・衝撃:振動、加速度等
- 摩擦・過熱:温度等
- モーターの電気状態・負荷:電流、電圧等
- 流体系の変化:圧力、流量等
- 異音・漏れ:音響、超音波等
ただし、この対応は一対一ではありません。例えば電流も機械負荷の影響を受けますし、振動もアンバランス、芯ずれ、ベアリング、ギアなど複数の状態変化によって変わります。
4. 既存データで取得できているか確認する
必要な計測量が見えた後で、PLC、設備コントローラ、既存センサー、点検記録等を確認します。
既に電流・温度・圧力・回転数等を取得しているのであれば、追加センサーを購入する前に、そのデータで何が確認できるかを整理します。
ここではデータの有無だけでなく、取得周期、保存期間、欠損、計測位置、運転条件との対応等も確認します。
5. 不足する情報だけ追加計測する
既存データでは対象故障に必要な情報が不足する場合に、追加センサーを検討します。
重要なのは、「センサーを追加すること」ではなく、「現在何が分からず、その情報を得るために何を追加するのか」を説明できる状態にすることです。
設備・部位・故障・劣化現象を具体化する。
振動、摩擦、発熱、負荷、圧力変化等を整理する。
振動、温度、電流、圧力、流量、音響等を選ぶ。
既存設備データを確認し、不足する情報だけ追加計測する。
ベアリング劣化ならなぜ振動が候補になるのか
ここでは、モーターと回転軸、ベアリングを持つ架空設備を考えます。
現在取得しているデータは、モーター電流、表面温度、回転数、運転状態、アラーム、点検記録です。振動データは取得していないとします。
対象故障モードを「ベアリングの劣化・損傷」とした場合、転動体、内輪、外輪等の状態変化に伴う接触・衝撃が振動特性として現れる可能性があります。そのため、振動・加速度は有力な計測量候補になります。
実際、振動計測はベアリング状態、ギア噛み合い、ミスアライメント、アンバランス等の状態監視に広く利用されています(Murphy, 2020)。
ただし、「ベアリング故障なら振動値を測ればよい」というほど単純ではありません。
初期の損傷では単純な振動量の増加だけでは識別しにくい場合があり、周波数帯、センサーの帯域・ノイズ、回転速度、設置位置、運転条件等によって得られる情報が変わります。
また、既存の温度・電流・回転数データにも状態変化が表れていないかを一次確認できます。既存データで足りない情報として「ベアリング周辺の振動」が明確になった段階で、PoC対象設備に限定して振動センサーを追加するという進め方が考えられます。
振動・温度・電流・圧力・音響は何が違う?
| 計測量 | 主に確認できる状態変化の例 | 利用例 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 振動 | 回転、接触、衝撃、アンバランス等 | ベアリング、ギア、回転機等 | 帯域、ノイズ、設置位置、回転条件を考慮する |
| 温度 | 摩擦、過熱、冷却状態等 | 軸受、モーター、電装品等 | 周囲温度や負荷の影響を受ける |
| 電流 | 電気状態、負荷変化等 | モーター、駆動系等 | 機械負荷や運転条件による正常変動もある |
| 圧力・流量 | 流体抵抗、供給状態、漏れ等 | ポンプ、配管、空圧・油圧系等 | 設定値や工程条件との対応が必要 |
| 音響・超音波 | 異音、漏れ、衝撃等 | 回転機、エア漏れ等 | 周囲騒音や設置環境の影響を受ける |
この表は「故障ごとの正解センサー」を示すものではありません。同じ故障モードでも複数の計測量を組み合わせる場合があります。
重要なのは、測りやすさだけで選ばず、「この信号を取得することで、どの保全判断を改善したいのか」を明確にすることです。
センサーの種類以外に確認したいこと
必要な計測量が決まっても、それだけでは計測設計は完了しません。
- どこにセンサーを設置するか
- どの程度の時間分解能・周波数帯が必要か
- ノイズや周囲設備の影響はないか
- 回転数・負荷・品種等の運転条件を取得できるか
- データをどの期間保存するか
- 点検・交換・故障履歴と時刻を対応付けられるか
- 異常らしい変化を見つけた後、どの保全行動を取るか
特に振動では、対象部位から離れた場所で取得すると状態変化が十分に伝わらない場合があります。また、ベアリング等の状態監視では、対象現象に応じた周波数帯を取得できるセンサー・記録系が必要になります。
センサーの製品名より先に、必要な情報要件を整理することが重要です。
追加センサーを導入すべきケース
既存データを優先して確認するからといって、追加センサーを避けることが目的ではありません。
例えば次のような場合には、追加計測を検討する意味があります。
- 対象故障に関係する物理量を現在取得していない
- 既存データの保存周期では必要な変化を捉えられない
- 計測位置が対象部位から遠く、状態変化を確認しにくい
- 既存信号だけでは複数の原因を切り分けにくい
- 保全判断を行うために、より直接的な状態情報が必要である
この場合も、最初から全設備へ展開するのではなく、対象設備・部位・期間を限定して取得し、保全判断に役立つ情報が得られるか確認する方法があります。
状態監視技術の導入では、技術的にデータを取得・分析できるかだけでなく、実際の保全プロセスや投資効果との関係まで評価することが重要です(Dadfarnia et al., 2025)。
追加センサー導入前チェックリスト
| 確認項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 設備・部位 | どの設備のどの部位を監視するか |
| 故障モード | 何の故障・劣化を対象にするか |
| 物理現象 | 故障前に何が変化する可能性があるか |
| 計測量 | その変化を何で計測できるか |
| 既存データ | 必要な計測量を既に取得していないか |
| データ品質 | 周期、期間、欠損、ノイズ等は十分か |
| 運転条件 | 回転数、負荷、品種等を同時に取得できるか |
| 計測位置 | 対象現象を捉えられる場所か |
| 追加目的 | 追加センサーで何を明らかにするか説明できるか |
| 保全判断 | データを見た後に取る行動が決まっているか |
追加センサーを選ぶ前に、まず「何の故障・劣化を捉えたいのか」「その前にどのような物理変化が起こる可能性があるのか」「その変化を現在の設備データで既に取得していないか」の3点を整理してみてください。
センサーを追加する目的と、現在不足している情報を分けやすくなります。
まとめ
予兆保全で重要なのは、センサーを増やすことではなく、保全判断に必要な情報を取得することです。
まず対象設備と故障モードを決め、故障前に起こり得る物理現象を整理します。その物理現象を捉える計測量を選び、既存のPLC・設備ログ・センサーデータ等で既に取得できていないかを確認します。
ベアリング劣化では振動が有力な計測候補になりますが、振動を取得すれば必ず異常を早期検知できるわけではありません。必要な帯域、設置位置、回転速度、ノイズ、運転条件等も合わせて考える必要があります。
そして、既存データで不足する情報が明確になった段階で、その不足を補うための追加計測を検討します。
SCI総合研究所株式会社のMIRASENTでは、振動・温度・電流等のセンサー追加を最初から前提とせず、対象設備の故障モード、想定される状態変化、現在取得している設備データ、運転条件、点検・保全履歴等を確認し、どの状態量を計測する意味があるかを整理します。
そのうえで既存データでは情報が不足する場合に、追加計測する物理量やPoC範囲を検討します。「どのセンサーを付ければよいか分からない」「既存データで足りるのか判断できない」といった段階から相談できます。
参考文献
- Tandon, N. and Choudhury, A. 1999. A review of vibration and acoustic measurement methods for the detection of defects in rolling element bearings. Tribology International. Vol. 32. Issue 8. pp. 469-480. https://doi.org/10.1016/S0301-679X(99)00077-8
- Sharp, M. E., Brundage, M. P., Sprock, T. A. and Weiss, B. A. 2019. Selecting Optimal Data for Creating Informed Maintenance Decisions in a Manufacturing Environment. Proceedings of 2019 Model-Based Enterprise Summit. National Institute of Standards and Technology. https://www.nist.gov/publications/selecting-optimal-data-creating-informed-maintenance-decisions-manufacturing
- Murphy, C. 2020. Choosing the Most Suitable Predictive Maintenance Sensor. Analog Devices. https://www.analog.com/en/resources/technical-articles/2020/05/26/09/01/choosing-the-most-suitable-predictive-maintenance-sensor.html
- Dadfarnia, M., Sharp, M. and Herrmann, J. 2025. Comprehensive evaluations of condition monitoring-based technologies in industrial maintenance: A systematic review. Journal of Manufacturing Systems. Vol. 82. https://doi.org/10.1016/j.jmsy.2025.06.015