異常検知と故障診断は何が違う?AIでできること・できないことを設備保全の流れで解説

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設備の状態監視へAIや機械学習を導入すると、「異常スコアが上がったので、どこが故障しているのか教えてほしい」という場面が出てきます。

しかし、異常を検知することと、故障原因を診断することは同じ処理ではありません。異常検知モデルが「普段と違う状態」を捉えても、その情報だけで軸受、アンバランス、芯ずれ、緩み、負荷変化、センサー異常などを区別できるとは限りません。

設備保全では、異常検知、切り分け、故障診断、さらに必要に応じて根本原因分析を分けて考えると、AIの役割と現場で確認すべきことを整理しやすくなります。

本記事では、AIの異常スコアが上昇した回転機械を例に、振動波形・周波数成分、運転条件、温度、電流、保全履歴などをどのように組み合わせて原因候補を絞り込むかを解説します。

異常検知と故障診断を混同すると何が起こるか

異常検知の主な目的は、正常状態から外れた変化を捉えることです。一方、故障診断では、その変化がどの部位や故障モードと関係している可能性があるのかを検討します。

ISO 13379-1:2025も、機械システムの状態監視・診断について、データ解釈や診断技術、用途に応じた診断アプローチの選択を扱っています(ISO, 2025)。また、データ駆動型の機械故障診断に関するレビューでも、異常検知、故障検出、故障分類などは異なる課題として整理されています(Neupane et al., 2025)。

例えば異常スコアが高くなったとしても、それだけで「軸受故障」と結論付けると、運転条件変更やセンサー異常など別の要因を見落とす可能性があります。

逆に、異常検知モデルに原因診断まで求めてしまうと、本来は正常状態からの逸脱を早く見つけることに価値があるモデルを「原因まで分からないから使えない」と評価してしまうこともあります。

設備状態の判断を3段階に分けて考える
01
異常検知
「いつもと違うか」を確認し、正常状態から外れた変化を捉える。
02
切り分け
どの設備・部位・信号・運転条件に変化があるかを確認する。
03
故障診断
波形、周波数、他センサー、点検情報などから故障モード候補を絞る。

異常検知は「いつもと違う」を見つける

異常検知では、正常運転時のデータを基準として、現在の設備状態が通常範囲からどの程度外れているかを評価する方法があります。

出力としては、正常・異常の判定だけでなく、正常状態からの外れ具合を表す「異常スコア」を利用する場合もあります。

ただし、異常スコアは基本的に原因名ではありません。スコア上昇の背景には、実際の設備劣化だけでなく、負荷変更、速度変更、品種切替、起動・停止、センサー位置の変化、欠損やノイズなどが含まれる可能性があります。

したがって、異常スコアの上昇を見つけた段階では、「設備状態に通常と異なる変化が生じている可能性がある」と解釈し、次の切り分けへ進みます。

故障診断は「何が起きているか」を絞り込む

故障診断では、異常検知された時間帯について、どの信号が変化したのか、どの故障モードと整合するのかを確認します。

回転機械であれば、振動の大きさだけでなく、元波形や周波数スペクトル、回転数、負荷などを確認することがあります。さらに温度、電流、保全履歴、点検結果などを組み合わせることで、原因候補を絞り込みやすくなります。

ただし、特定の周波数成分が増えたことだけを根拠に、一つの故障原因へ確定するとは限りません。設備構造、運転条件、測定位置などによって信号の現れ方は変わるためです。

異常スコア上昇後に振動周波数を確認する仮想例

説明用の仮想例として、回転機械に設置した振動センサーから異常スコアを計算しているケースを考えます。

通常運転中は異常スコアが一定範囲に収まっていましたが、ある時間帯からスコアが上昇しました。

この段階では、故障とは断定しません。まず同じ時間帯について、回転数、負荷、品種、運転モードが変わっていないかを確認します。次にセンサー値の欠損やノイズ、通信異常などがないかを確認します。

運転条件やデータ品質だけでは説明できない場合には、異常スコア上昇時の振動元波形や周波数スペクトルを確認します。

そこで通常時とは異なる周波数成分が確認されたとしても、それは特定の故障モードを疑う追加材料の一つです。さらに温度、電流、回転数、設備点検、保全履歴、部品状態などと照合し、原因候補を絞り込みます。

異常アラートをそのまま故障原因とせず、確認情報を段階的に増やす
異常スコア上昇 通常と異なる状態の可能性を検出する。
運転条件を確認 回転数、負荷、品種、運転モード等の変化を確認する。
センサー・データ品質を確認 欠損、ノイズ、通信状態、センサー状態を確認する。
波形・周波数等を確認 振動波形、スペクトル、温度、電流等から変化箇所を絞る。
点検・履歴と照合 保全履歴、現場点検、部品状態を組み合わせて故障モード候補を整理する。

異常検知後に行う3段階の切り分け

1.運転条件・センサー状態を確認する

最初に確認したいのは、設備の使われ方が変わっていないかです。

  • 回転数や負荷が変わっていないか
  • 品種や加工条件が変更されていないか
  • 起動・停止など非定常状態ではないか
  • センサーに欠損・ノイズがないか
  • センサー交換や取付変更がなかったか

正常な運転条件変更を故障として扱わないための段階です。

2.どの信号・部位が変化したか絞り込む

次に、異常スコアが上昇した時間帯で、どのセンサーや物理量が通常時と異なるのかを確認します。

振動だけが変化しているのか、温度も同時に上昇しているのか、電流や負荷にも変化があるのかによって、確認すべき対象は変わります。

多変量の異常検知モデルであっても、アラート後の保全行動へつなげるには、どの設備情報を詳しく確認するかを整理することが重要です。

3.波形・周波数・保全情報から故障モード候補を確認する

切り分け対象が振動であれば、必要に応じて元波形や周波数スペクトルなどを確認します。

周波数情報は、回転に同期した変化や特定部位に関連する特徴を確認する材料になります。ただし、設備形式、測定位置、回転数、負荷等によって結果は変わるため、周波数成分だけで原因を確定しません。

設備構造、点検結果、保全履歴と合わせて、「どの故障モードが現在の観測結果と整合するか」を確認します。

AIで故障診断まで行えるケースとは

異常検知と故障診断を分けるからといって、「AIでは故障診断できない」という意味ではありません。

例えば、軸受異常、アンバランス、芯ずれなど、診断対象とする故障モードがあらかじめ定義され、それぞれについて十分な学習・検証データが存在する場合には、機械学習を使って故障クラスや候補を出力する方法があります。

ただし、異常検知モデルとは目的と必要データが異なります。

観点異常検知故障分類・診断
主な問い普段と違うかどの故障モードが疑われるか
必要データ正常データ中心でも構築できる場合がある故障モード別のデータが必要になる場合がある
主な出力異常判定・異常スコア等故障クラス・候補等
未知故障通常状態との差として検出できる場合がある既知クラスへ適切に分類できるとは限らない
次の行動原因の切り分け診断結果の確認・点検

実設備では故障データ自体が少ないことも多く、故障モードごとの教師ラベルを十分に用意できるとは限りません。また、学習時に存在しなかった未知故障を、既存の故障クラスへ無理に当てはめないことも重要です。

故障診断と根本原因分析も分けて考える

故障診断で「軸受損傷の可能性が高い」と判断できても、「なぜ軸受が損傷したのか」まで同時に分かるとは限りません。

根本原因を調べる場合には、潤滑状態、取付状態、過負荷、芯ずれ、部品寿命、整備履歴、運転方法など、設備データ以外の情報も含めて検討します。

つまり、次のように分けて考えます。

  • 異常検知:通常状態から外れているか
  • 故障診断:どの部位・故障モードが疑われるか
  • 根本原因分析:なぜその故障が生じたのか

この区別をしておくと、AIモデルへどこまでの役割を求めるのか、どこから保全担当者の確認へ引き継ぐのかを設計しやすくなります。

異常検知システム導入時に決めておきたい運用

異常検知システムは、アラートを出せるだけでは保全業務として完結しません。導入時には「アラート後に誰が何を見るか」まで決めておくことが重要です。

観点確認項目
初期確認運転条件は変化していないか
センサーに欠損・ノイズはないか
設備イベント・品種切替等はないか
切り分けどのセンサーが変化したか
いつから変化したか
複数センサーで同時変化しているか
追加分析元波形を確認できるか
周波数特性に変化があるか
温度・電流・回転数等と整合するか
診断想定故障モードと整合するか
保全履歴と一致するか
現場点検で確認できるか

このチェックリストの該当数だけで故障原因を決定するものではありません。

設備構造、運転条件、センサー位置、故障モードによって確認方法は異なります。

異常スコアが上がったときは、すぐに特定の故障と結び付けるのではなく、まず運転条件やセンサー状態を確認し、どの信号が変化しているかを切り分けます。その後、必要に応じて元波形、周波数特性、保全履歴、現場点検などを組み合わせて故障モード候補を絞ります。

まとめ

異常検知と故障診断は、設備保全の中で役割が異なります。

異常検知は「普段と違う状態」を捉えるための入口です。その後、運転条件やセンサー状態を確認し、どの信号・部位に変化があるのかを切り分け、必要に応じて振動波形、周波数、温度、電流、保全履歴、点検結果などから故障モード候補を整理します。

AI・機械学習を故障分類や診断支援へ利用することもできますが、異常検知モデルとは目的や必要データが異なります。また、故障モードを診断できても、その故障が生じた背景である根本原因は別途確認が必要な場合があります。

重要なのは、AIへすべてを任せることではなく、異常検知の結果を、どのような追加分析と現場確認によって保全判断へつなげるかを設計することです。

SCI総合研究所株式会社のMIRASENTでは、「異常検知システムからアラートは出るが、その後の原因確認方法が決まっていない」「異常検知と故障診断をどこまで分けて設計すべきか分からない」「振動・温度・電流等の設備データを故障原因の切り分けへつなげたい」といった段階から、取得済みデータ、想定故障モード、運転条件、保全履歴、現場での点検方法等を整理しながら状態監視の流れを検討します。

AIだけで原因特定することを前提とせず、異常検知、追加分析、現場確認をどのように組み合わせると保全判断につながるかを整理します。

参考文献

  • International Organization for Standardization. 2025. Condition monitoring and diagnostics of machine systems — Data interpretation and diagnostics techniques — Part 1: General guidelines. ISO 13379-1:2025. https://www.iso.org/standard/88027.html
  • Neupane, D., Bouadjenek, M. R., Dazeley, R., and Aryal, S. 2025. Data-driven machinery fault diagnosis: A comprehensive review. Neurocomputing. Vol. 627. Article 129588. https://doi.org/10.1016/j.neucom.2025.129588