運転条件が変わると設備の異常検知はどうなる?品種・速度・負荷変動への対応方法

産業インサイト・課題解決//

振動センサーなどを使って設備の状態監視を始めると、「正常時の振動値を基準にして、そこから外れたら異常と判定する」という考え方がまず浮かびます。

ところが実際の製造現場では、同じ設備でも生産品種、回転数、ライン速度、負荷、運転モードなどが変わります。その結果、設備そのものには異常がなくても、正常時の振動値やそのばらつきが変わる場合があります。

このような設備では、単純に「振動値が高い=異常」と判断すると、正常な条件変更を設備異常として検知する可能性があります。一方、誤検知を減らすためにしきい値を広げすぎると、本当に確認したい変化を捉えにくくなることも考えられます。

重要なのは、設備が一般的に正常か異常かを見るだけではなく、「現在の運転条件に対して通常の状態か」を確認することです。本記事では、品種、速度、負荷等が変わる設備について、固定しきい値、条件別判定、条件別モデル、正常値の補正などの考え方を整理します。

なぜ運転条件が変わると「正常値」も変わるのか

振動は設備の劣化や故障だけによって変化するものではありません。回転機械では、回転数や負荷が変化すると振動信号の大きさや周波数特性も変化する場合があります。振動を用いた状態監視では、測定方法や評価条件を明確にし、運転中の状態を踏まえて解釈することが重要です(ISO, 2016)。

可変速条件における回転機械の故障診断についても、一定速度とは異なる信号処理・診断上の課題があることが整理されています(Sowmya et al., 2024)。

例えば、次のような変化が考えられます。

  • 回転数が上がることで振動特性が変化する
  • 設備負荷が増えることで正常時の振動レベルが変化する
  • ワーク重量や加工条件の違いによって設備へ加わる力が変化する
  • 起動・停止・暖機中と定常運転で振動特性が異なる
  • 治具や工程条件の変更によって振動の伝わり方が変化する

そのため、振動値に変化があった場合には、「設備劣化による変化」と「正常な運転条件変更による変化」を切り分けて考える必要があります。

機械学習を利用する場合も同様です。学習時と実運用時で運転条件が変わると、入力データの分布が変化し、学習済みモデルの診断性能に影響することがあります。このような分布の変化は、機械学習ではドメインシフトなどとして扱われます(Xiao et al., 2025)。

製品Aと製品Bで正常振動値が異なる仮想例

説明用の仮想例として、同じ製造設備で製品Aと製品Bを生産しているケースを考えます。

設備自体はどちらの生産時も正常ですが、製品Aを生産するときと製品Bを生産するときでは、正常時の振動分布が異なっているとします。

確認項目製品A製品B
設備状態正常正常
生産品種製品A製品B
回転数・速度条件A条件B
負荷・加工条件条件A条件B
正常時の振動分布比較的低い側比較的高い側

ここで、製品Aの正常データを中心に共通しきい値を設定すると、製品Bを生産している正常設備でも、一部のデータがしきい値を超える可能性があります。

ただし、「製品Bだから振動が高い」と結論付けるのは早計です。品種変更に伴って、回転数、ライン速度、負荷、ワーク重量、治具、加工条件、運転モードなどが変わっている可能性があります。

まずは品種名をラベルとして見るだけでなく、品種変更と同時に何の運転条件が変わっているのかを確認します。

説明用概念図:同じ設備でも運転条件によって正常範囲が異なる場合がある
製品A
製品B
図は概念を説明するものであり、実設備の振動基準や警報値を示すものではありません。

固定しきい値だけでは判断しにくい理由

固定しきい値は分かりやすく、条件の影響が小さい設備では有効な方法です。そのため、「固定しきい値は使えない」ということではありません。

問題になるのは、正常条件間の差が大きい場合です。

例えば、低負荷条件を基準にしきい値を設定すると、高負荷の正常運転で警報が増える可能性があります。そこで警報を減らすためにしきい値を高くすると、低負荷条件では設備状態の変化を捉えにくくなる可能性があります。

つまり、しきい値調整だけを繰り返す前に、正常状態の中に複数の運転条件が混在していないかを確認することが重要です。

振動を用いた状態監視では、測定、前処理、特徴抽出、診断など複数の段階があり、対象機械や監視目的に応じた方法選択が必要です(Tiboni et al., 2022)。モデルを高度化する前に、まず正常データを条件別に可視化するだけでも、多くの情報を得られます。

異常検知と一緒に記録したい運転条件

条件変動を考慮した異常検知を行うには、振動値だけでなく「その振動値がどの条件で取得されたのか」を後から確認できることが重要です。

データ確認する理由
生産品種・製品コード品種切替と振動変化の対応を確認する
回転数・設備速度速度変化に伴う振動特性の変化を確認する
負荷設備へ加わる負荷と振動の関係を見る
運転モード通常運転、待機、段取り等を区別する
起動・停止状態非定常状態を通常運転から分ける
工程・レシピ加工条件の違いを確認する
時刻センサーデータと設備・生産情報を同期する
環境条件必要に応じて温度等の影響を確認する

特に重要なのは時刻です。振動データと生産実績、設備速度、負荷等を後から結合できるよう、タイムスタンプや設備識別子をそろえておく必要があります。

逆に、振動データだけを長期間保存しても、「その時間帯に何を生産し、設備がどの条件で動いていたのか」が分からなければ、条件変動と設備状態変化を切り分けにくくなります。

運転条件が変わる設備で使える5つの対応方法

運転条件による正常変動が確認された場合、対応方法は一つではありません。条件差の大きさ、条件数、取得できるデータ量、現場での運用方法を踏まえて選択します。

1.条件影響が小さい場合は共通しきい値を使う

条件による正常値の差が小さく、共通のしきい値でも実用上問題がない場合は、無理に複雑なモデルへ変更する必要はありません。

判定方法が単純であれば、現場への説明、保守、設定変更も容易になります。まず条件別にデータを可視化し、本当に条件分けが必要なのかを確認することが出発点です。

2.条件ごとに正常範囲・しきい値を分ける

製品A、製品B、低速、高速など、少数の明確な運転モードに分けられる場合は、条件ごとに正常範囲やしきい値を設定する方法があります。

仕組みを比較的理解しやすい一方、品種や運転条件が増えるほど、基準値の管理対象も増えます。新品種追加時に正常範囲をどのように確認するかも、運用ルールとして考えておく必要があります。

3.条件別に異常検知モデルを分ける

正常データの特徴が条件ごとに大きく異なり、それぞれで十分なデータが確保できる場合は、条件別に異常検知モデルを作る方法もあります。

ただし、「品種ごとにモデルを作ればよい」と単純には言えません。条件を細かく分けるほど、一つの条件で利用できる学習データが少なくなり、モデル数や更新作業も増えます。

4.運転条件による正常変動を補正して残差を見る

回転数や負荷のように連続的に変化する条件では、「その条件なら正常設備でどの程度の値になると考えられるか」を推定し、実測値との差を見る方法があります。

この実測値と期待値との差を残差と呼びます。例えば負荷が高いほど正常時の振動値も上がる関係があるなら、その関係を考慮したうえで、通常の関係から外れた変化を確認します。

ただし、正常変動を補正しすぎると、確認したい故障兆候まで取り除く可能性があります。設備構造や想定する故障モードと照らして設計する必要があります。

5.運転条件をモデル入力に含める

品種、速度、負荷などを異常検知モデル側の入力情報として扱い、現在の条件を考慮しながら状態を評価する方法もあります。

条件が多い場合にモデルを大量に分割せずに済む可能性がありますが、十分な条件範囲のデータが必要です。また、学習していない条件でも適切に判定できるとは限りません。

条件の特徴に応じて判定方法を選ぶ
条件の状態
検討しやすい方法
主な確認点
条件差が小さい
共通基準
正常条件をまとめても判定上問題がないか
少数の明確な条件
条件別しきい値・条件別モデル
各条件で十分な正常データを確保できるか
連続的な条件変化
正常値補正・条件入力
速度・負荷等との関係が安定しているか
未学習条件
新条件として確認
既存モデルの判定をそのまま適用してよいか

条件別モデルを増やしすぎると何が起こるか

品種や運転条件ごとにモデルを分ける方法は分かりやすい一方、条件が増えるほど運用が複雑になります。

  • 条件ごとに必要な正常データを確保しなければならない
  • 新品種や新速度条件が追加されるたびに確認対象が増える
  • 複数モデルのバージョン・更新時期を管理する必要がある
  • どの条件でどのモデルを使うか判定する仕組みが必要になる
  • 点検結果をどのモデルへ反映すべきか管理する必要がある

例えば、品種10種類と運転速度5条件を単純に組み合わせてすべて別モデルにする設計は、必ずしも合理的とは限りません。品種名ではなく、実際に振動へ影響している速度や負荷を連続変数として扱った方が管理しやすい場合もあります。

そのため、条件別モデルを作る前に、「どの条件が本当に正常分布へ影響しているのか」を確認することが重要です。

学習していない新しい運転条件をどう扱うか

設備を長く運用していると、新品種、新しい加工条件、従来より高い負荷、新しい速度設定など、モデル作成時には存在しなかった条件が追加されることがあります。

機械診断では、学習時と実運用時の分布差が診断性能に影響することが知られており、未知の運転条件への一般化は重要な課題です(Xiao et al., 2025)。

したがって、新しい条件で得られたデータを既存条件と同じものとして無条件に判定するのではなく、まず新しい運転条件であることを識別できるようにします。

そのうえで、正常運転であることを現場情報や点検結果と照合し、既存の正常範囲へ含められるか、新しい基準が必要か、モデル更新が必要かを確認します。

異常検知はモデルを一度作れば終わるものではなく、設備の運転方法や生産条件の変化とあわせて維持する必要があります。

導入前・PoCで確認したいチェックポイント

観点確認項目
データ取得振動値と生産品種を同じ時刻で紐付けられるか
回転数・速度を記録しているか
負荷または負荷を表す情報を記録しているか
起動・停止・通常運転等の状態が分かるか
正常データ品種別の正常分布を確認したか
速度・負荷別の正常分布を確認したか
条件差と設備状態変化を区別できるか
主要な運転条件で正常データを確保できているか
判定共通しきい値で運用できるか確認したか
条件別しきい値が必要か検討したか
条件別モデルの更新・保守負荷を確認したか
速度・負荷による正常変動を補正できるか検討したか
運用新品種追加時の確認手順があるか
新しい速度・負荷条件をどう扱うか決めているか
未学習条件での判定をどう扱うか決めているか
アラート後の点検結果を分析へ戻せるか

このチェックリストの該当数だけで、条件別モデルや補正の採用を決めるものではありません。

設備構造、想定故障、センサー設置位置、データ量、運転条件数などによって適切な方法は異なります。

異常アラートが増えた場合は、しきい値を緩める前に、品種、回転数、負荷、運転モード等によって正常時の分布が変わっていないかを確認することが重要です。条件差が大きい場合は、どの条件で基準を分けるべきか、あるいは補正できるかを整理します。

まとめ

設備の異常検知では、正常値が一つに固定できるとは限りません。同じ設備でも、生産品種、回転数、速度、負荷、運転モードなどが変われば、正常時の振動分布が変化する場合があります。

そのため、固定しきい値で誤検知が増えたときに、しきい値だけを調整するのではなく、まずセンサーデータと運転条件を紐付けて正常分布を確認します。

条件による影響が小さければ共通基準を維持できます。少数の明確な条件なら条件別しきい値や条件別モデル、速度・負荷が連続的に変化する場合には正常値の補正や運転条件を入力に含める方法などが候補になります。

一方、条件別モデルを増やしすぎると、データ不足やモデル更新・運用管理の負担が大きくなります。また、新しい品種や未学習条件では既存モデルの判定を過信せず、新条件として確認する運用も必要です。

SCI総合研究所株式会社のMIRASENTでは、「品種や負荷が変わると振動値も変わり、異常判定が安定しない」「固定しきい値、条件別判定、補正のどれが自社設備に適しているか分からない」といった設備データの課題について、対象設備、運転条件、取得済みデータ、保全履歴等を整理しながら診断方法を検討します。

大規模な予兆保全システムの導入を前提とせず、まずは対象設備の正常変動と運転条件の関係を確認し、保全判断に利用できるデータかを整理するところから進めます。

参考文献

  • International Organization for Standardization. 2016. Mechanical vibration — Measurement and evaluation of machine vibration — Part 1: General guidelines. ISO 20816-1:2016. https://www.iso.org/standard/63180.html
  • Sowmya, S., Saimurugan, M., and Edinbarough, I. 2024. Rotational Machine Fault Diagnosis Using Artificial Intelligence (AI) Strategies for the Operational Challenges Under Variable Speed Condition: A Review. IEEE Access. Vol. 12. pp. 144870-144889. https://doi.org/10.1109/ACCESS.2024.3469212
  • Tiboni, M., Remino, C., Bussola, R., and Amici, C. 2022. A Review on Vibration-Based Condition Monitoring of Rotating Machinery. Applied Sciences. Vol. 12. Issue 3. Article 972. https://doi.org/10.3390/app12030972
  • Xiao, Y., Shao, H., Yan, S., Wang, J., Peng, Y., and Liu, B. 2025. Domain generalization for rotating machinery fault diagnosis: A survey. Advanced Engineering Informatics. Vol. 64. Article 103063. https://doi.org/10.1016/j.aei.2024.103063