「電子承認を導入したのに、申請前には上司への説明が必要」「システムへ入力した後、同じ内容をExcelにも転記している」「紙は減ったが、業務時間はあまり変わっていない」。DXツールやSaaSを導入した企業では、このような状況が起きることがあります。
こうした状況では、ツールの機能不足だけを疑うのではなく、ツールを導入する対象となった業務プロセスそのものを確認する必要があります。非効率な手順をそのままデジタル化すれば、紙が画面に置き換わったとしても、承認、待ち時間、二重入力、手戻りといった問題が残る場合があるためです。
本記事では、DXツールを導入しても業務が変わらない場合に確認したいポイントと、ツール選定より前に業務プロセスを見直すための具体的な進め方を解説します。
DXツールを導入しても業務が変わらないのはなぜか
DXでは、システムやツールの導入そのものではなく、それによって業務や意思決定のあり方をどう変えるかが重要です。
例えば、それまで紙で作成していた申請書を電子フォームに変更すれば、申請書の「電子化」は進みます。しかし、申請前の口頭説明、複数人による確認、承認後の印刷、別システムへの転記などが以前と同じであれば、業務全体としての負担は大きく変わらない可能性があります。
重要なのは、「紙を何に置き換えるか」ではなく、「そもそも何のためにこの業務を行っているのか」から確認することです。
現行業務をそのままデジタル化すると起きやすいこと
紙が画面に変わっただけになる
典型的なのが、紙の帳票をそのまま電子フォームへ置き換えるケースです。入力方法は変わっても、入力項目、確認方法、承認経路まで従来と同じであれば、元々存在していた不要な工程までシステム上に再現する可能性があります。
紙とデジタルの二重運用が残る
電子承認を導入した後にも、説明用に申請書を印刷したり、承認済み文書を紙で保管したりすることがあります。もちろん、法令、契約、監査、内部統制、安全管理などの理由から紙が必要な場合もあります。
問題なのは紙を残すこと自体ではありません。なぜその工程を残しているのかが説明できないまま、従来の運用だけが残っている状態です。
承認や入力の目的が曖昧なまま残る
「以前から部長承認だったから」「昔からこの項目を入力しているから」という理由だけで、業務ルールが維持されている場合もあります。
システム導入は、こうした業務を見直す機会でもあります。現在の事業規模、組織、リスク、情報利用の実態を踏まえ、各工程が現在も必要なのかを確認することが重要です。
現行プロセスをそのまま電子化
- 電子申請を作成する
- 上司へ口頭で事前説明する
- システム上で電子承認する
- 承認済み書類を印刷する
- 紙でも保管する
目的から業務を再確認
- 申請に必要な情報を整理する
- システム上で判断材料を確認する
- 必要な権限者が電子承認する
- 必要な形式で記録・保存する
ツール導入前に見直したい5つのポイント
1.その業務は何のために存在するのか
最初に確認したいのは業務の目的です。「申請書を作ること」ではなく、「必要な情報を責任者が確認し、意思決定の記録を残すこと」のように、業務を一段上の目的から捉えます。
目的が明確になれば、現在の帳票や手順を必ずしもそのまま維持する必要がないことに気づきやすくなります。
2.その作業や承認は現在も必要か
現在の工程を一覧化し、それぞれについて「なぜ必要なのか」を確認します。特に、転記、印刷、複数人による同一内容の確認、形式的な承認などは、目的を確認する価値があります。
ただし、内部統制、職務分掌、セキュリティ、品質保証などの観点から、複数承認が必要な場合もあります。工程数だけを減らすのではなく、必要性とリスクの両面から判断します。
3.誰が、どの情報を使って判断しているか
業務フローを見る際は、「誰が作業するか」だけではなく、「誰が何を判断し、そのために何の情報が必要なのか」まで確認します。
例えば、上司への事前説明が残っているなら、「なぜシステム上の申請内容だけでは判断できないのか」を確認します。説明時に追加情報が必要なのであれば、その情報を申請時に確認できる設計へ変更できる可能性があります。
4.例外処理と手戻りはどこで発生しているか
通常フローだけを見てシステム化すると、導入後に例外処理が増える場合があります。差し戻し、緊急申請、入力漏れ、担当者不在、代理承認、システム外で受け取った情報なども確認します。
例外をすべてシステム化する必要はありません。しかし、頻繁に発生する例外を把握せずに設計すると、「結局メールやExcelで補う」という運用になりやすいため注意が必要です。
5.何を改善できれば成功とするか
「システムを導入する」「電子化率を上げる」だけを目標にすると、導入そのものが目的になりやすくなります。
処理時間、待ち時間、手戻り、二重入力、問い合わせ、入力ミスなど、対象業務で減らしたい負担を事前に決めておくと、導入後の評価がしやすくなります。必ずしもすべてを数値化する必要はありませんが、少なくとも「何が変われば改善と判断するのか」は関係者で共有しておくことが望まれます。
業務プロセス見直しは「課題からツール」の順番で進める
業務改善とシステム導入を同時に進める場合、最初から製品比較を始めるより、現在の業務と課題を整理してから必要な機能へ落とし込む方が、判断しやすくなります。
まず現在の業務、いわゆる「As-Is(現状)」を可視化します。次に、不要な工程、重複、待ち時間、手戻り、例外処理などを確認し、目指す業務である「To-Be(目指す状態)」を検討します。
その後、「誰が利用するのか」「何の情報が必要か」「どの権限が必要か」「既存システムと連携するか」といった要件へ落とし込み、そこで初めてツールを比較します。
この順番で整理すると、便利そうな機能の多さではなく、自社が解決したい課題に必要な機能があるかという基準で比較しやすくなります。
ツールを選ぶ前に、何を改善したいのか、どの業務を残すのか、どこまでデジタル化するのか判断しにくい場合は、第三者と論点を整理する方法もあります。SCI総合研究所の技術・DX相談「KAMUSHIRUBE」では、ツール導入ありきではなく、課題や判断軸を整理する段階から相談できます。
ツール導入後は「使われているか」だけで評価しない
システム導入後には、ログイン数や利用率だけではなく、対象とした業務自体がどう変化したのかを確認します。
| 確認する観点 | 確認したい内容 |
|---|---|
| 作業 | 不要な入力、転記、印刷などが残っていないか |
| 時間 | 作業だけでなく、承認待ちや確認待ちが残っていないか |
| 手戻り | 入力漏れ、差し戻し、再申請がどこで発生しているか |
| 情報 | 判断に必要な情報をシステム上で確認できるか |
| 例外 | メールやExcelなど、システム外の処理が常態化していないか |
| 統制 | 権限、承認、記録、セキュリティ上必要な要件を満たしているか |
例えば電子承認の処理自体が短時間になっていても、申請前の口頭説明や承認後の転記が増えていれば、業務全体では改善していない可能性があります。
逆に、確認工程が残っていても、それがリスク管理上必要であり、担当者間で役割と目的が明確になっているのであれば、一概に削減すべきとはいえません。
まず自社で確認したい業務プロセスのチェックポイント
- 現在の業務の目的を一文で説明できるか
- 各入力項目を「何のために使うのか」説明できるか
- 各承認者が何を判断しているか明確か
- 同じ情報を複数の場所へ入力していないか
- システム導入後にも紙、メール、Excelによる補完作業が常態化していないか
- 差し戻しや例外処理が頻発する箇所を把握しているか
- 法令、契約、内部統制、セキュリティ等の理由で残すべき工程を区別できているか
- ツール導入後に何が改善したか確認する指標があるか
すべてに明確に答えられる必要はありません。むしろ、答えられない項目が「ツールを追加する前に確認すべき論点」になります。
ツールを選ぶ前に「何を変えるか」を整理する
DXツールを導入しても業務が変わらない場合、原因がツールだけにあるとは限りません。現行業務の目的、承認、情報、例外処理などが整理されないままシステム化されていると、従来の負担が形を変えて残ることがあります。
そのため、DXや業務改善では、まず「何を導入するか」ではなく、何を改善したいのか、現在はどのように業務が行われているのか、目指す業務はどのような状態かを整理することが重要です。
課題整理、現状把握、目指す業務の設計、要件整理を行ったうえでツールを選定し、導入後には業務全体の変化を確認する。この流れを持つことで、ツール導入そのものが目的になることを避けやすくなります。
DXや業務改善を進めたいものの、ツール導入、業務見直し、データ整理のどこから始めるべきか判断しにくい場合、SCI総合研究所のKAMUSHIRUBEでは、現在の課題や判断に迷っている点を起点として、次に確認すべき論点の整理を支援しています。
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