DX担当に任命されたら何から始める?最初の1か月で整理したい7つのこと

産業インサイト・課題解決/

「来月からDX担当をお願いしたい」「AIも含めて、会社のDXを進めてほしい」。突然このように言われても、何から手を付ければよいのか分からないのは不自然ではありません。

特に中小企業では、専任のDX部門や情報システム部門がなく、営業企画、総務、経理、製造などの本業と兼務しながらDXを担当するケースがあります。

このとき、最初から生成AIを導入したり、新しいSaaSを探したり、大規模なDXロードマップを作ったりする必要はありません。

新任DX担当者が最初の1か月で目指したいのは、「会社は何に困っていて、何がすでに動いており、誰が何を決め、次に何を確認する必要があるのか」を説明できる状態にすることです。

本記事では、「とりあえずDX担当」に任命された人が、最初の30日で整理しておきたい事項を4週間に分けて解説します。

「とりあえずDX担当」で最初にツールを探さない

DX担当になると、「生成AIを導入する」「紙をなくす」「BIを入れる」「新しい業務システムを導入する」といった施策を考えたくなります。

しかし、ツールは課題を解決するための手段です。何を改善したいのかが曖昧な状態でツールを導入すると、費用や運用負荷だけが増えたり、別の部門がすでに似た施策を進めていたりする可能性があります。

経済産業省・IPAのDX推進指標も、経営者や社内関係者がDXの現状や課題について認識を共有し、アクションにつなげるための自己診断として位置づけられています(経済産業省・IPA, 2026)。

したがって、最初に確認したいのは「何を導入するか」ではなく、「何を解決する必要があるのか」「何を判断しなければならないのか」です。

新任DX担当者の最初の30日
目的・役割・権限
会社から何を期待され、何を自分で判断できるのかを確認する。
課題・現状IT
経営・現場の課題と、主要システム・SaaS・データを把握する。
案件・関係者
進行中案件、担当者、ベンダー、意思決定経路を一覧化する。
優先度・次の90日
分かったことと不明点を整理し、次に確認するテーマを決める。

第1週:DXの目的・役割・権限を確認する

最初に行いたいのは、経営者や上司との認識合わせです。

「DXを進めてほしい」だけでは範囲が広すぎます。売上拡大、人手不足への対応、業務時間の削減、顧客対応、データ活用、セキュリティ、老朽システム対応など、会社として何を問題視しているのかを確認します。

この段階で精密なKPIまで決める必要はありません。まずは「なぜ自分がDX担当に任命されたのか」「半年後にどのような状態になっていれば前進と言えるのか」を確認する程度でも構いません。

責任だけでなく、何を決められるかを確認する

目的と同じくらい重要なのが権限です。

  • 各部門へヒアリングしてよいか
  • システムやSaaSの契約状況を確認できるか
  • ITベンダーと直接会話してよいか
  • 予算案を提示できるか
  • 案件の優先順位変更や停止を提案できるか
  • 最終的な投資判断を行う人は誰か

DX担当者がすべてを決める必要はありません。むしろ、調査・整理・提案を担当する人と、業務上の判断をする部門責任者、投資・優先順位を決定する経営者を分けて考えた方が進めやすくなります。

責任だけがあり、情報へアクセスできず、部門調整もできず、誰が決裁するかも分からない状態では、担当者個人の努力だけでDXを進めることは難しくなります。

第2週:経営課題と現場の困りごとを整理する

次に、経営者と現場の双方から課題を集めます。

経営者には、「売上・原価・人員・顧客・業務スピードなど、今後改善したいことは何か」を確認します。

現場には、「どこに時間がかかっているか」「どこで待ちや二重入力が発生しているか」「ミスが起きやすい作業は何か」「判断に必要な情報が足りない場面はないか」を聞きます。

ここで注意したいのは、「Excelを使っている」「紙がある」といった状態だけを課題としないことです。

例えば「Excelへの入力が多い」のであれば、その結果として月次集計に時間がかかる、同じ情報を複数回入力している、担当者ごとに数値が異なる、といった業務上の問題まで確認します。

DX案件をツール名ではなく上位課題からつなげて見る
経営課題
売上、原価、人材、顧客、意思決定、リスクなど
業務課題
入力、集計、待ち、ミス、属人化、情報共有など
IT・データ
システム、SaaS、Excel・Access、データ、セキュリティ
DX・IT案件
AI、システム刷新、業務改善、BI、SaaS導入等の具体策

第2週:現在のIT・データを大まかに棚卸しする

課題と並行して、現在のIT環境も大まかに確認します。

ただし、最初の1か月で全PC、全ソフトウェア、全ネットワーク機器まで完全に台帳化する必要はありません。初月の目的は、意思決定に必要な全体像をつかむことです。

確認対象初月で確認したい内容
主要業務システム用途、利用部門、担当者、主な問題
SaaS何のために使うか、管理者、契約・更新
Excel・Access等重要業務で使われているもの、属人化の有無
主要データ売上、顧客、原価、案件等がどこにあるか
ITベンダー何を依頼しており、契約窓口が誰か
セキュリティアカウント、データ、バックアップ等で大きな懸念がないか

棚卸しを進めると、「管理者が分からないSaaS」「契約更新時期が不明」「データの保存場所が分からない」「システムの担当者が退職している」といった不明点が見つかることがあります。

これらも重要な成果です。初月では、すべての不明点を解消するより、何が分かっていないかを見える状態にすることを優先します。

第3週:進行中のDX・IT案件を一覧化する

新任DX担当者が新しい企画を始める前に、すでに社内で動いている案件を確認します。

営業部では顧客管理SaaS、経理ではExcel改善、製造部では古いシステムの刷新、管理部門では生成AI利用ルールといったように、各部門が別々に取り組んでいることがあります。

案件一覧には、製品名だけでなく「何の課題を解決するための案件なのか」を書きます。

項目確認内容
案件名社内で認識できる名称
解決したい課題どの業務・経営課題を解決するか
担当者案件を主に進めている人
対象部門誰の業務が変わるか
現在の状態検討、見積、実証、導入中など
ベンダー外部企業が関係しているか
費用把握できる範囲で契約・予算状況を確認
依存関係他システム・データ・案件が前提になっていないか
次の判断次に何を決めなければ進まないか

例えば「BIを導入する」という案件があっても、必要なデータが各部門へ散在しているなら、先にデータの所在や定義を確認する必要があるかもしれません。

案件同士の重複や依存関係が見えるだけでも、新しいDX施策を増やす前に行うべきことが変わります。

第3週:関係者・ベンダー・意思決定経路を整理する

DX担当者が一人ですべてを決める必要はありません。むしろ、誰が何について判断するのかを明確にします。

例えば、DX担当者は情報収集・課題整理・提案を行い、業務責任者は現場業務について判断し、経営者は投資・優先順位を判断する、といった分担です。技術担当者やITベンダーは技術的な選択肢を提示します。

この整理をせずにDX担当者がすべての問い合わせ・調整・障害対応・システム選定を抱えると、「DX担当」が実質的なIT何でも係になりやすくなります。

特に兼務の場合は、DX推進と日常的なPCトラブル、アカウント発行、Excel相談などの境界を確認しておくことが重要です。

第4週:案件を「優先・継続・保留・要確認」に整理する

4週目になったら、それまでに把握した課題と案件を一度整理します。

ただし、初月の情報だけで精密なランキングを作る必要はありません。

  • 優先して確認:経営・業務への影響が大きく、判断を先送りしにくい
  • 継続:すでに目的が明確で、現在の方向性を継続できる
  • 次に検討:重要だが、前提となる情報や準備が不足している
  • 保留:現時点では優先度が高くない
  • 要再確認:目的、担当、費用、効果等が説明できない

この段階で大切なのは、案件を無理に順位付けすることではなく、次に必要な判断を明確にすることです。

DX案件の評価でも、売上増加や費用削減だけを使う必要はありません。セキュリティ、法令対応、老朽システム、データ基盤などは、単純な短期ROIだけでは評価しにくい場合があります。

第4週:次の90日で確認することを決める

最初の1か月で大規模なDX戦略や数年分のロードマップを完成させる必要はありません。

むしろ、初月で見つかった不明点や重要テーマについて「次の90日で何を確かめるか」を整理します。

優先テーマ次に確認すること
月次経営情報必要な指標、現在の集計方法、元データの所在
顧客管理SaaS営業課題、既存ツールとの重複、利用部門
古い業務システム保守性、障害時影響、刷新提案の目的
生成AI対象業務、扱う情報、利用ルール、期待する効果

このように、「導入するかどうか」をすぐ決めるのではなく、次の意思決定に必要な情報を集めることを計画します。

新任DX担当者が最初の1か月で作っておきたい資料

初月の成果物は、厚いDX戦略書である必要はありません。1〜数ページや簡単な表でも、次の内容を説明できれば十分なスタートになります。

  1. DXを進める目的・経営上の課題
  2. DX担当者へ期待される役割と権限
  3. 主な業務課題
  4. 現状の主要IT・データ
  5. 進行中のDX・IT案件
  6. 分かっていないこと・確認待ち事項
  7. 次の90日で確認するテーマ

この資料があれば、「今月は何を導入したのか」ではなく、「現在の会社の状態をどう理解し、次に何を判断するのか」を経営者と共有しやすくなります。

DX担当に任命された直後で何から始めるか迷っている場合は、まず1枚の表に「会社として困っていること」「現在動いているDX・IT案件」「主なシステム・SaaS」「担当者」「最終的に判断する人」「分からないこと」を書き出してみてください。

新しい施策を増やす前に、すでに社内で何が起きているかを見える状態にすることが最初の一歩です。

兼務のDX担当者が抱え込みすぎないために

本業と兼務していること自体が、DX推進の失敗を意味するわけではありません。

ただし時間が限られている以上、「自分が担当すること」「業務部門に判断してもらうこと」「経営者へ上げること」「技術担当者や外部へ相談すること」を分ける必要があります。

また、分からない技術テーマをすべて自分で学習してから判断する必要もありません。例えばクラウド、生成AI、システム刷新、セキュリティなど、専門性が必要な論点については、判断に必要な確認事項を整理した上で社内外の専門家へ確認する方法があります。

DX担当者に必要なのは、すべての技術に精通することよりも、経営・業務上の目的と技術的な選択肢をつなぎ、誰に何を確認すべきか整理できることです。

DX担当者の初月チェックリスト

確認項目確認内容
目的会社がDXで改善したい経営・業務課題を確認したか
役割自分に期待されている範囲を確認したか
権限情報収集、部門調整、予算提案等の範囲を確認したか
意思決定者案件・投資の最終判断者が分かっているか
業務課題経営者と現場の双方から課題を確認したか
現状IT主要システム、SaaS、Excel・Access等を把握したか
データ重要な経営・業務データがどこにあるか確認したか
ベンダー主なITベンダーと契約窓口を把握したか
進行案件すでに動いているDX・IT案件を一覧化したか
目的との接続各案件が何を解決するものか説明できるか
依存関係他のシステム・データ・案件との前後関係を確認したか
不明点分からないことを一覧化したか
優先度優先・継続・保留・要確認等に仮整理したか
次の90日次に確認・検証するテーマを決めたか

まとめ

DX担当に任命された最初の1か月で重要なのは、新しいシステムやAIを導入して目に見える成果を急ぐことではありません。

まず、会社がDXで何を変えたいのか、自分は何を期待され何を決められるのか、経営・現場は何に困っているのかを整理します。

その上で、主要なシステム・SaaS・データ、すでに進行しているDX・IT案件、関係者と意思決定経路を見える状態にします。

最初の1か月でDX戦略を完成させる必要はありません。むしろ、「分かっていること」「分かっていないこと」「次に判断すること」を経営者や関係者と共有し、次の90日で確認するテーマを決めることが、継続的なDX推進の土台になります。

SCI総合研究所株式会社のKAMUSHIRUBEでは、「DX担当に任命されたが何から始めればよいか分からない」「AI・システム刷新・SaaS導入など複数の話があり優先順位を決められない」「社内に技術的な相談相手がいない」といった段階から相談できます。

いきなりシステム導入や大規模なDX計画を始めるのではなく、経営課題、現状IT、進行案件、社内体制を整理し、次に確認すべき事項や優先して検討するテーマを明確にします。

参考文献

  • 経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構(IPA). 2026. DX推進指標.
  • 経済産業省. 2024. デジタルガバナンス・コード3.0 ~DX経営による企業価値向上に向けて~.
  • Vial, G. 2019. Understanding digital transformation: A review and a research agenda. The Journal of Strategic Information Systems. Vol. 28. Issue 2. pp. 118-144. DOI: 10.1016/j.jsis.2019.01.003.
  • Verhoef, P. C. et al. 2021. Digital transformation: A multidisciplinary reflection and research agenda. Journal of Business Research. Vol. 122. pp. 889-901. DOI: 10.1016/j.jbusres.2019.09.022.