「社内にデータはあるが、何を分析すればよいか分からない」。データ活用を始めようとした企業では、このような状態になることがあります。
POSには販売実績、Excelには在庫や原価、営業日報には顧客の反応が蓄積されている。それでも「このデータから何ができますか」と考え始めると、売上分析、顧客分析、需要予測、AI活用など候補ばかりが増え、何から着手すべきか決められないことがあります。
このような場合に重要なのは、データそのものを出発点にしすぎないことです。
「何のデータがあるか」より先に、「誰が、何を判断するときに困っているのか」を整理すると、必要なデータを絞りやすくなります。
本記事では、POS、Excel、CSV、業務システム、日報などが社内にあるものの分析テーマが決まっていない企業を想定し、意思決定から必要なデータを逆算して棚卸しする方法を解説します。
データはあるのに「何を分析するか」が決まらない理由
データ活用を始めるとき、「まず社内に何のデータがあるか調べよう」と考えること自体は間違いではありません。既存データを探索することで、新しい仮説や課題が見つかる場合もあります。
ただし、継続的に業務へ使う分析テーマを決める際に、「POSがあるからPOS分析」「日報があるからテキスト分析」という順序だけで考えると、分析すること自体が目的になりやすくなります。
例えば商品別売上のグラフを作れたとしても、それを見て誰が何を変えるのか決まっていなければ、レポートを作る作業だけが増える可能性があります。
そこで、企業のデータ活用では「分析結果を受けて変えたい意思決定や行動」を先に置きます。
「あるデータ」ではなく「変えたい判断」から始める
意思決定から考えるとき、最初から難しい経営テーマを設定する必要はありません。
例えば次のような、日常的に繰り返している判断が候補になります。
- 来月はどの商品を多く仕入れるか
- どの顧客へ営業フォローを優先するか
- どの店舗で在庫を増減するか
- どの業務を改善対象にするか
- どの案件へ人員を優先的に配置するか
このように「誰が」「何を決めるか」が決まると、その判断のために知りたいことを具体化できます。
データ活用テーマを決める5つのステップ
1. 誰が何を判断するか決める
まず意思決定者と判断内容を書き出します。
「経営にデータを使いたい」では広すぎます。「商品部門の責任者が、翌月の商品別発注数量を決める」のように具体化します。
同じデータでも、経営者が事業別の資源配分を判断する場合と、店舗責任者が明日の発注量を判断する場合では、必要な粒度や更新頻度が異なります。
2. 現在の判断方法を確認する
次に、現在その判断をどのように行っているかを確認します。
- 担当者の経験で決めている
- 毎月Excelを手作業で集計している
- 会議で各部門の報告を聞いて決めている
- 前月実績をそのまま参考にしている
ここで「何が分からないために判断しにくいのか」まで整理します。分析テーマは、この不足している判断材料から見つけやすくなります。
3. 判断に必要な情報・指標を整理する
例えば「来月どの商品を重点的に仕入れるか」という判断なら、単純な売上金額だけでは足りないかもしれません。
商品別販売量、売上推移、粗利、在庫量、欠品状況、店舗ごとの差、季節性などが候補になります。
重要なのは、最初から指標を増やしすぎず、判断を変える可能性がある情報を優先することです。
4. 必要なデータと保存場所を確認する
必要な情報が整理できた後で、社内のデータを確認します。
売上実績はPOS、原価や在庫はExcel、顧客の反応や欠品理由は日報にある、といった形で必要情報とデータソースを対応付けます。
この段階で初めて、「手元にあるデータ」と「意思決定に必要なデータ」の差が見えてきます。
5. 最小範囲で分析し、判断に使えるか確認する
必要なデータがそろったからといって、すぐに大規模なデータ基盤やAIを導入する必要があるとは限りません。
まず一つの商品群、一つの店舗、一つの期間などに範囲を絞り、集計や可視化を行います。
そこで得られた結果を実際の判断に使い、「以前より判断しやすくなったか」「次の行動を変えられたか」を確認します。
例:翌月の商品別発注量を決める
どの商品が、どの店舗・時期で動いているか
販売数量、粗利、在庫、欠品等
商品コード、日付、数量、原価、在庫数等
POS、Excel、日報、業務システム等
POS・Excel・日報がある企業を例に考える
ここでは説明用の架空企業を考えます。
この企業では、POSに日付、店舗、商品コード、販売数量、売上金額が記録されています。Excelには商品分類、原価、在庫数量、発注数があり、店舗・営業日報には顧客の反応、問い合わせ、欠品、クレーム等の自由記述が残っています。
これだけを見ると、「売上分析」「在庫分析」「日報のAI分析」など多くのテーマが考えられます。
そこで先に、経営・業務上の判断を一つ選びます。
来月、どの商品を重点的に仕入れるべきか。
この判断であれば、POSは販売実績、Excelは原価・粗利・在庫、日報は定量データだけでは分かりにくい需要変化や欠品理由を把握する材料として位置付けられます。
一方、「どの顧客へ営業フォローを優先するか」という意思決定であれば、必要なデータは変わります。顧客別の購入履歴、最終接触日、案件状況、問い合わせ内容などが重要になるかもしれません。
つまり、同じPOS・Excel・日報でも、改善したい意思決定によって見る項目やデータの組み合わせは変わります。
社内データを棚卸しするときに確認する項目
分析テーマがある程度決まったら、必要なデータを棚卸しします。
| 確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| データ名 | POS、在庫表、顧客一覧、営業日報等 |
| 保存場所 | 業務システム、共有フォルダ、個人PC、SaaS等 |
| 管理部門 | 誰が入力・更新・管理しているか |
| 主な項目 | 商品コード、日付、数量、金額等 |
| 粒度 | 1取引、1日、1店舗、1顧客等のどの単位か |
| 対象期間 | いつからどの程度蓄積されているか |
| 更新頻度 | リアルタイム、日次、月次、手動等 |
| 共通キー | 商品ID、顧客ID、店舗ID等で他データと対応できるか |
| 品質 | 欠損、重複、表記揺れ、入力ルールの違いがないか |
| 機密性 | 個人情報、営業機密等を含むか |
特に注意したいのが、データの「名前」だけでは判断できない点です。
同じ「売上データ」でも、受注時点なのか出荷時点なのか、税込・税抜なのか、返品をどのように扱うのかによって意味が変わります。
また、商品コードや顧客コードがシステム間で一致していなければ、そのまま結合できないこともあります。
必要なデータが足りない場合はどうするか
棚卸しの結果、「判断に必要なデータが社内に存在しない」と分かる場合があります。
これは棚卸しの失敗ではありません。むしろ、今後何を記録すべきかが明確になった状態です。
例えば欠品理由を判断材料にしたいのに、「欠品」という事実だけしか記録されていないのであれば、今後は仕入遅延、需要急増、発注漏れなど理由区分を記録する方法を検討できます。
ただし、取得できるデータを何でも増やすのではなく、その情報によって実際の意思決定を変えられるかを確認してから記録項目を追加する方がよいでしょう。
最初からBI・データ基盤・AIは必要か
データ活用というと、BIツール、データウェアハウス、AI等の導入から考えたくなることがあります。
しかし、対象データがExcel数ファイルで、月次の意思決定に使うだけなら、まずExcelやCSVを整理して集計・可視化するだけで十分な場合があります。
一方、複数システムから継続的にデータを集めたい、部門横断で同じ定義を使いたい、更新頻度が高い、権限管理や監査が必要といった条件が出てきた場合には、データ基盤やBIの必要性が高まります。
予測や分類も同じです。単純な集計や比較で意思決定を改善できるのであれば、機械学習やAIを追加する必要はありません。
分析手法の高度さと、業務上の価値は必ずしも比例しません。
データ活用テーマを決めるための質問集
- 最近、判断に迷った業務は何か
- 毎週・毎月繰り返している判断は何か
- 担当者の経験だけに依存している判断は何か
- 会議資料を作るために毎回時間がかかっているテーマは何か
- 結果が出てから初めて問題に気付く業務は何か
- どの情報が分かれば判断を変えられるか
- その情報は現在どこに記録されているか
- 分析結果を見た後、誰が何を変えるのか
社内データを棚卸しする前に、まず「誰が」「何を判断するときに」「今何が分からなくて困っているか」を1つ書き出してみてください。
その判断に必要な情報を考えてからPOS、Excel、日報を見ると、確認すべきデータを絞りやすくなります。
まとめ
社内に多くのデータがあっても、それだけでデータ活用テーマが決まるわけではありません。
まず、誰が何を判断するときに困っているかを明確にし、その判断に必要な情報、指標、データを順に整理します。
その後でPOS、Excel、CSV、日報、業務システム等を棚卸しすると、「今あるデータでできること」と「不足しているデータ」を分けやすくなります。
また、最初からすべてのデータを統合したり、BIやAIを導入したりする必要があるとは限りません。小さな集計・可視化でも実際の判断を改善できるのであれば、そこから始めることができます。
SCI総合研究所株式会社のKAMUSHIRUBEでは、Excel、CSV、POS、業務システム、日報等のデータについて、「何が分析できるか」だけではなく、どの経営・業務上の判断に活用するかという段階から論点を整理しています。
「社内にデータはあるが分析テーマが決まらない」「どのデータから整理すればよいか分からない」「BIやデータ基盤が必要なのか判断できない」といった段階から、次に確認すべき事項を整理できます。