業務システムの導入や刷新を検討すると、「SaaSを使う」「自社で開発する」「システム会社へ外注する」といった複数の選択肢が出てきます。
例えば、ITベンダーから「勤怠管理システムを御社専用にフルスクラッチで開発しましょう」と提案された場合、独自システムの方が自社業務に合わせやすいように見えます。一方、市販の勤怠管理SaaSにも多くの機能があり、「本当にゼロから作る必要があるのか」と迷うことがあります。
ここで重要なのは、SaaS・自社開発・外注のどれが優れているかを先に決めるのではなく、その業務を自社独自のシステムとして持つ意味があるかを確認することです。
標準的な業務であれば、既存SaaSへ業務を合わせた方が合理的な場合があります。一方、独自の業務プロセスや設備連携が事業運営上重要であれば、個別開発が候補になることもあります。
本記事では、SaaS、自社開発、外注開発を、差別化、速度、費用、柔軟性、保守、人材、将来の移行まで含めて比較します。
SaaS・自社開発・外注は何が違うのか
最初に3つの方式を整理します。
実際には、この3つは完全な三択ではありません。SaaSを基本として必要な連携部分だけ開発したり、自社エンジニアと外部開発会社が共同で開発したりする構成もあります。
最初に「独自システムとして持つ意味」を考える
方式を決める前に確認したいのが、その業務や機能が自社の競争力や重要な運用要件にどの程度関係しているかです。
例えば、一般的な休暇申請、承認、勤怠集計などは、多くの企業に共通する業務です。既存SaaSで主要要件を満たせるのであれば、自社専用システムを新たに作る必要性は低くなる可能性があります。
一方、独自の生産計画と勤務シフトを連携する必要がある、特殊な勤務体系を扱う、独自端末から勤務実績を取得するなど、一般的なSaaSでは対応しにくい要件が事業上不可欠であれば、個別開発を検討する理由になります。
そのため、単に「現在の業務をそのままシステム化する」のではなく、標準化してよい部分と、独自性を残す必要がある部分を分けることが重要です。
7つの観点でSaaS・自社開発・外注を比較する
1. 差別化:独自仕様に事業上の意味があるか
独自機能を作れること自体はメリットではありません。その機能が売上、顧客体験、業務品質、重要な事業プロセス等にどのような価値を持つかを確認します。
一般的なバックオフィス業務では、独自性を維持するより業務を標準化する方が管理しやすい場合もあります。
2. 導入速度:いつ利用開始したいか
SaaSは既存機能を利用できるため、要件が適合すれば比較的早期に利用を開始できる場合があります。
自社開発や外注開発では、要件定義、設計、開発、テスト、移行等が必要です。ただし、複雑なSaaS設定や大規模なデータ移行が必要であれば、SaaSでも導入に時間がかかることがあります。
3. 初期費用とTCO:長期費用まで見る
システム方式を初期費用だけで比較すると、判断を誤ることがあります。
TCO(Total Cost of Ownership:総保有コスト)として、SaaSであれば利用料、設定変更、連携、データ移行等、自社開発なら開発人材、クラウド、監視、保守、改修等、外注なら開発費、保守契約、追加改修、発注者側の管理工数等まで考えます。
4. 変更・拡張性:仕様変更に誰が対応するか
SaaSは提供されている設定やAPIの範囲で利用するため、変更可能な範囲には制約があります。一方、自社開発は技術的には変更しやすくても、実際に変更できるエンジニアが継続して在籍している必要があります。
外注開発も、契約や設計資料、ソースコード、開発会社の体制等によって変更のしやすさが変わります。
5. 保守体制・人材:5年後も維持できるか
自社開発では「作れる人」だけでなく、「運用・障害対応・アップデート・セキュリティ対応を続けられる人」が必要です。
外注でも、すべてを委託先へ任せればよいわけではありません。自社側には要件判断、受入れ、変更の優先順位、利用ルール等の役割が残ります。
SaaSについても、アカウント管理、権限設定、利用状況確認、データ管理等は利用企業側で継続する必要があります。
6. システム連携:既存環境とつながるか
勤怠システムであれば、給与、人事、会計、ID管理、ICカード等との連携が必要になることがあります。
SaaSを選定する場合には必要なAPIやデータ出力を利用できるか、自社開発・外注開発では既存システム側の仕様を把握できているかを確認します。
7. リスク・出口:導入後だけでなく終了時も考える
システムは導入時だけでなく、サービス終了、ベンダー変更、担当者退職、システム刷新まで考える必要があります。
- データを標準的な形式で取り出せるか
- 別システムへ移行できるか
- 契約終了後のデータはどう扱われるか
- 設計書・ソースコード等を誰が保持するか
- 特定企業・担当者だけに知識が集中していないか
を確認します。
「勤怠管理をフルスクラッチで」という提案を考える
ここでは説明用の架空ケースとして、ITベンダーから「勤怠管理システムを御社専用にフルスクラッチで開発しましょう」と提案された企業を考えます。
必要な機能として、出退勤、休暇申請、承認、勤務時間集計、CSV出力があります。さらに、複数拠点、複数勤務パターン、ICカード、給与システム連携、SSO、独自承認フロー、部署別権限等が挙げられているとします。
この時点で「フルスクラッチは高そうだからSaaSにする」と決めるのも、「自社固有要件があるからスクラッチにする」と決めるのも早いでしょう。
まず、各要件について次のように分けます。
現在業務をそのまま列挙せず、必須・変更可能を分ける。
標準機能・設定で主要要件を満たせるか確認する。
業務変更や外部連携で解決できないか検討する。
重要な差分だけ内製・外注開発の対象として検討する。
例えば出退勤や休暇申請はSaaSで対応できても、特殊な生産設備から勤務実績を取得する部分だけは個別開発が必要かもしれません。
その場合、「SaaSかスクラッチか」の二択ではなく、SaaSを中心に独自連携部分だけを開発する構成も候補になります。
フルスクラッチを提案された場合は、まず「SaaSでは満たせない必須要件は何か」「その要件は業務を変えてでも残す必要があるか」「独自開発した場合に誰が保守するか」の3点を書き出すと、方式を比較しやすくなります。
SaaS・自社開発・外注開発の比較
| 比較項目 | SaaS | 自社開発 | 外注開発 |
|---|---|---|---|
| 導入速度 | 既存機能が適合すれば早期導入しやすい | 設計・開発・試験期間が必要 | 要件定義・開発・受入れ期間が必要 |
| 初期費用 | 契約・設定・移行・連携等が中心 | 開発人材・環境等が必要 | 要件・開発範囲によって変化 |
| 継続費用 | 利用料、設定変更、連携等 | 人件費、基盤、保守、改修等 | 保守契約、改修、管理工数等 |
| 独自仕様 | 標準機能・設定範囲に制約 | 自社で変更可能な範囲が広い | 契約・技術条件に応じて個別対応 |
| 人材 | 開発人材は必須ではないが運用担当は必要 | 開発・保守人材を継続確保する必要 | 発注・受入れ・運用判断を行う人材が必要 |
| アップデート | 提供者側の更新へ追随する | 自社で計画・実施する | 契約・保守体制に応じる |
| システム連携 | 提供API等の範囲で対応 | 技術的に設計できる範囲が広い | 要件に応じて設計する |
| 出口 | 解約時のデータ取得・移行条件を確認 | 技術資産・人材の継承が課題になり得る | 成果物、データ、契約終了条件を確認 |
この表は優劣を示すものではありません。例えば「変更自由度が高い」ことは、同時に「変更・保守を自ら担う必要がある」ことでもあります。
どのような場合に各方式が候補になるか
SaaSが候補になりやすいケース
業務を標準化でき、市販サービスで主要要件を満たせる場合です。早期導入を重視する場合や、自社で開発・保守人材を長期確保しにくい場合も候補になります。
自社開発が候補になりやすいケース
独自業務が事業価値に直結し、仕様変更を継続的に自社で行いたい場合です。ただし、開発時だけでなく数年単位で保守・改善できる体制があるかを確認します。
外注開発が候補になりやすいケース
独自システムが必要である一方、自社だけでは必要な開発リソースや技術を確保できない場合です。ただし、何を作るか、何を優先するか、完成したものを受け入れるかといった判断まで外注するわけではありません。
方式を決める前のチェックリスト
| 確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 事業価値 | 対象業務の独自性は競争力や重要な運用要件に直結するか |
| SaaS適合 | 既存SaaSで主要要件を満たせるか |
| 業務標準化 | システムへ合わせて業務を変更できるか |
| 独自要件 | 必須の独自要件を具体的に説明できるか |
| 人材 | 開発・発注・保守に必要な人材を継続確保できるか |
| 保守 | 数年後も障害・更新・仕様変更へ対応できるか |
| 連携 | 既存システムとの連携条件を把握しているか |
| 費用 | 初期費用だけでなくTCOを比較しているか |
| セキュリティ | 利用データ、権限、脆弱性対応等の責任範囲が明確か |
| 出口 | サービス終了・ベンダー変更・担当者退職時にも継続できるか |
まとめ
SaaS、自社開発、外注開発のどれを選ぶべきかは、企業規模だけでは決まりません。
まず、その業務を独自システムとして持つ必要があるかを確認し、標準化できる部分と独自性を残す部分を分けます。そのうえで、差別化、速度、TCO、柔軟性、保守体制、システム連携、将来の移行リスクを比較します。
また、SaaS・内製・外注を完全な三択にする必要もありません。SaaSを中心に必要部分だけ開発する、内製チームと外部ベンダーで役割を分けるなど、複数方式を組み合わせることもできます。
SCI総合研究所株式会社のKAMUSHIRUBEでは、SaaS、システム内製、外部委託等の選択について、特定の製品や開発方式を前提とせず、業務課題、必要要件、費用、運用負荷、セキュリティ、社内体制等の観点から論点を整理しています。
「ベンダーから独自開発を提案されたが本当に必要か分からない」「SaaSと個別開発のどちらを選ぶべきか社内で判断できない」といった段階から、次に確認すべき事項を整理できます。