害虫モニタリングは自動化すべき?施設園芸で手作業と比較する判断基準

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施設園芸で害虫モニタリングを行う際、粘着トラップの確認、捕獲数の計数、記録、ハウス間の巡回などには一定の作業時間がかかります。管理するハウスや確認地点が増えるほど、「カメラやIoTを使って自動化できないか」と考える場面も増えてきます。

実際に、害虫の撮影、捕獲数の計数、記録、遠隔確認などを自動化・省力化する技術は研究・実用化が進んでいます。農研機構では、IoTカメラとフェロモントラップを組み合わせ、害虫の発生状況を日単位で遠隔確認するモニタリング技術が開発されています(農研機構, 2023)。また、施設園芸の粘着トラップについて、画像からアザミウマ類を自動計数する研究も報告されています(Ueki et al., 2026)。

しかし、技術的に自動化できることと、経営上も自動化した方がよいことは同じではありません。

例えば、ハウスが1棟だけで、日常の見回りの途中に数枚のトラップを確認できるのであれば、機器、通信、保守に費用をかけるより、人が確認した方が合理的な場合があります。一方で、50棟を管理し、多数のトラップを定期的に確認している場合には、巡回・計数・記録の工数が積み上がり、自動化や遠隔監視を検討する価値が高まります。

本記事では、害虫モニタリングを「自動化できるか」ではなく、「自動化する経済的・管理上の合理性があるか」という視点から考えます。

害虫モニタリングでは何を自動化できるのか

害虫モニタリングの自動化といっても、防除作業のすべてを無人化するわけではありません。主な対象は、観測、撮影、計数、記録、データ送信、遠隔確認などです。

農研機構が開発したハスモンヨトウ向けのモニタリング装置では、IoTカメラとフェロモントラップ等を組み合わせ、従来は現地巡回によって確認していた捕殺状況を遠隔から日単位で確認できるようにしています(農研機構, 2023)。

また、イチゴ栽培の粘着トラップ画像からアザミウマ類を自動計数する研究では、一般的なデジタルカメラで撮影した画像を用いた計数手法が検討されています(Ueki et al., 2026)。

自動化の対象は「害虫管理そのもの」ではなく、まず観測・計数・記録・遠隔確認の工程と考えると整理しやすくなります。

一方、自動認識が可能でも、人による作業が完全になくなるとは限りません。粘着トラップを用いる仕組みでは、トラップの交換や状態確認が必要になり、捕獲虫が重なった場合などには画像解析が難しくなることも報告されています(Becker and Meyhöfer, 2026)。

MONITORING OPTIONS
手作業中心

現地巡回

目視計数

手入力・記録

部分自動化

自動撮影・遠隔確認

計数支援

異常時のみ現場確認

自動化中心

継続センシング

自動計数・記録

複数地点を遠隔監視

実際の導入では、この3種類のいずれか一つに統一する必要はありません。通常区画は手作業、遠隔地や重点区画だけ自動化する、といった組み合わせも考えられます。

自動化した方がよいとは限らない

スマート農業ではセンシング・モニタリング技術が幅広く利用されています。農林水産省のスマート農業技術カタログでも、作物や環境の状況をデータとして取得する「センシング/モニタリング」が一つの技術カテゴリーとして整理されています。

ただし、機器を導入すること自体が目的になると、削減できる工数よりも導入・運用コストの方が大きくなる可能性があります。

例えば、1回の巡回で容易に確認できる小規模ハウスでは、確認作業を数分削減するためにカメラ、通信回線、電源、クラウド、保守を用意することが合理的とは限りません。

反対に、ハウス数や確認地点が多い、圃場が分散している、確認頻度が高い、といった条件では、1回あたりの小さな作業でも年間では大きな工数になります。

したがって、最初に機器を選ぶのではなく、現在のモニタリングにどれだけの時間と費用を使っているかを把握することが重要です。

費用対効果を左右する5つの条件

1. 管理する棟数・面積・確認地点数

同じ方法で調査する場合、管理するハウスやトラップの数が増えれば、確認対象も増加します。単純な面積だけでなく、実際に人が確認する地点数で考える方が実務的です。

2. 巡回・計数・記録に必要な時間

トラップそのものを見る時間だけでなく、ハウス間の移動、虫体の計数、記録、データ入力、集計にかかる時間まで確認します。圃場が離れている場合には、計数時間より移動時間の方が大きいことも考えられます。

3. 必要な調査頻度

月1回で十分なのか、週1回なのか、それより短い間隔で状況を確認したいのかによって、自動化の価値は変わります。

農研機構のハスモンヨトウを対象とした事例では、人が現地で確認する従来調査は労力・コスト上、一般に5日〜1週間間隔だったのに対し、IoTを利用した装置では日単位でデータを取得しています(農研機構, 2023)。

4. 発生状況と高頻度観測の価値

単に調査回数を増やせるだけでは、投資価値があるとは限りません。対象害虫の発生変化、作物への影響、現在の防除判断に必要な情報量を踏まえて、高頻度データを取得する意味を考えます。

例えば、現在の週次確認で十分に判断できているのであれば、日次データを取得しても意思決定が変わらない可能性があります。逆に、発生変化をより短い間隔で把握する必要がある場合には、遠隔モニタリングの価値が高まります。

5. 自動化後にも残る作業

「現在の作業時間」をそのまま全額削減できると仮定すると、ROIを過大評価する可能性があります。

  • トラップの交換・清掃
  • カメラやセンサーの点検
  • 通信・電源トラブルへの対応
  • 誤検知や判定しにくい画像の確認
  • 発生を確認した後の現地点検

などは、自動化後にも残る可能性があります。自動化によって削減できる工数と、残存する工数を分けて評価します。

1棟と50棟のハウスでは何が違うか

ここでは説明のため、1棟のみを管理するケースと50棟を管理するケースを比較します。金額や効果について架空の数値は設定せず、費用対効果を左右する構造だけを比較します。

SCALE COMPARISON
比較軸
1棟
50棟
巡回対象

限定的になりやすい

総数が増えやすい

移動・確認

日常作業に組み込める場合がある

配置によって累積工数が大きくなる

記録・集計

情報量は比較的少ない

地点別データの管理負荷が増える

固定費

相対的に重くなりやすい

複数地点で価値を得られる可能性がある

導入方法

手作業継続も候補

重点棟から部分自動化も候補

棟数だけで判断せず、トラップ数、調査頻度、圃場間距離、対象害虫、作物への影響などを合わせて評価する。

50棟であっても、すべてのハウスが隣接し、確認地点が少なく、低い頻度の確認で十分なら、人手による巡回が合理的な場合があります。

反対に1棟でも、圃場が遠隔地にある、確認頻度が高い、日々の変化を捉える必要がある、といった条件では、遠隔監視の価値が高くなる可能性があります。

「何棟以上なら自動化」という一律の閾値ではなく、現在発生している工数と、追加で得られる情報の価値から判断することが重要です。

害虫モニタリングのROIをどう考えるか

まず、現在のモニタリングに使っている時間を把握します。例えば年間の手作業工数は、次のような構造で整理できます。

年間手作業工数 = 年間巡回回数 × {巡回・移動時間 +(確認地点数 × 1地点あたりの確認・計数・記録時間)}

そこへ担当者の人件費単価を掛けることで、現在のモニタリングにかかる労務コストを概算できます。

年間手作業コスト = 年間手作業時間 × 人件費単価

次に、自動化によって削減できる部分と、自動化後も残る部分を分けます。

ECONOMIC SCREENING
削減可能性を確認する工数
巡回・移動
トラップ確認
計数
記録・集計
費用対効果を比較
自動化で追加・残存するコスト
初期導入
通信・電源
保守・交換
現地確認・例外対応
導入判断:削減工数だけでなく、取得頻度の向上や遠隔確認が実際の防除・管理判断を変えるかも確認する。

簡易的なスクリーニングでは、次のように年間純削減額を考えられます。

年間純削減額 = 削減できる手作業コスト − 通信・保守費 − 自動化後も残る作業コスト

初期導入費を年間純削減額で割れば、単純な投資回収期間を確認できます。ただし、これは一次判断のための指標です。実際には機器の交換周期、故障、通信環境、運用変更なども含め、総保有コスト(TCO)で確認する必要があります。

また、「早く害虫を把握できたことで回避できた被害額」などは重要な価値になり得ますが、発生条件や作物、栽培環境によって大きく変わります。根拠の薄い被害回避額をROIへ組み込むと投資効果を過大評価する可能性があるため、まずは実測しやすい工数削減と分けて評価する方が扱いやすくなります。

手作業を残した方が合理的なケース

害虫モニタリングでは、手作業を続けること自体が非効率とは限りません。

  • 管理するハウス・確認地点が少ない
  • 他の栽培作業と同時に確認できる
  • 巡回距離が短い
  • 必要な調査頻度が低い
  • 現状の方法で防除判断に必要な情報を取得できている
  • 通信・電源環境を新たに整備する必要がある

こうした条件では、機器を追加するより既存の調査方法を標準化したり、記録様式を改善したりする方が費用対効果に優れる可能性があります。

全自動化ではなく「部分自動化」も考える

手作業か完全自動化かの二択にする必要もありません。

  • 発生リスクの高い区画だけカメラを設置する
  • 遠隔地のハウスだけ遠隔監視する
  • 画像で計数を支援し、最終確認は人が行う
  • 平常時は遠隔監視し、変化があった場合だけ現地確認する
  • 多棟のうち一部で実証してから対象を広げる

といった構成も可能です。

特に初めて自動化を検討する場合は、全圃場へ一斉導入するより、限定した区画で「どの作業がどの程度減ったか」「必要なデータを取得できたか」「保守にどれだけ手間がかかったか」を確認してから展開範囲を決める方が、導入判断を行いやすくなります。

導入前に自社で確認したいチェックリスト

確認事項確認する内容
管理規模何棟・何地点を確認しているか
巡回頻度年間で何回確認しているか
移動時間圃場間・ハウス間の移動に何分かかるか
確認工数トラップ1地点の確認・計数・記録に何分かかるか
データ利用取得した捕獲数を実際の防除判断に使っているか
必要頻度現在より高い頻度で観測する必要があるか
残存作業トラップ交換・清掃・現地確認はどの程度残るか
インフラ通信・電源を利用できるか
実証範囲一部区画で小規模に試せるか

特に最初に実施したいのは、巡回回数、トラップ数、1回あたりの確認時間、移動時間を実測することです。現在の工数が分からなければ、自動化によって何を削減できるかも評価できません。

なお、トラップ捕獲数はモニタリング上の重要な情報ですが、圃場全体の害虫密度そのものと同一ではありません。使用するトラップ、設置位置、対象害虫、作物の状態などを踏まえて結果を解釈する必要があります。

まとめ

害虫モニタリングの自動化では、「技術的に可能か」だけではなく、「現在の調査方法と比較して合理性があるか」を確認することが重要です。

  1. 管理棟数・確認地点数を把握する
  2. 巡回・移動・計数・記録工数を実測する
  3. 必要なモニタリング頻度を整理する
  4. 自動化後も残る作業を見積もる
  5. 手作業・部分自動化・自動化中心を比較する
  6. 必要であれば限定区画で実証する

1棟だから自動化する意味がない、50棟だから自動化すべき、と一律には判断できません。規模だけでなく、調査頻度、移動距離、確認地点数、対象害虫、取得したデータが実際の判断を変えるかまで含めて検討する必要があります。

SCI総合研究所株式会社のG-SENSIAでは、既存の点検・防除記録やモニタリング方法を確認し、どの場所・項目を継続的に確認する必要があるか、追加のセンサーやトラップ等が必要かを整理しています。

すべてを自動化することを前提とせず、現在の調査工数や管理対象、取得したいデータを踏まえてモニタリング方法を検討したい場合はご相談ください。

参考文献

  • 農研機構. 2023. IoTを利用した害虫発生調査の自動化に向けたモニタリング技術. 農研機構 西日本農業研究センター. https://www.naro.go.jp/project/results/5th_laboratory/warc/2023/warc23_s03.html
  • Ueki, T., Ibaraki, Y. and Iwamoto, T. 2026. Deep learning-based automatic counting of thrips captured on sticky traps in strawberry production. Journal of Agricultural Meteorology. Vol. 82. Issue 2. pp. 67-74. https://doi.org/10.2480/agrmet.D-25-00011
  • Becker, M. and Meyhöfer, R. 2026. Towards Automation of Pest Recognition and Analysis in Greenhouse as well as Outdoor Cultivation. SN Computer Science. Vol. 7. Article 525. https://doi.org/10.1007/s42979-026-05119-w
  • 農林水産省. 2024. スマート農業技術カタログ(施設園芸). 農林水産省. https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/smart_agri_technology/smartagri_catalog_shisetsu.html