「売上上位10社を重点顧客として営業資源を配分する」。BtoB企業では分かりやすい顧客管理方法の一つです。
しかし、売上が大きい顧客が、必ずしも最も利益へ貢献している顧客とは限りません。
同じ売上高でも、大口・定期発注で営業対応が少ない顧客と、小口注文が多く、配送・見積・問い合わせ対応が頻繁な顧客では、商品を販売した後に企業側が消費する経営資源が異なります。
顧客別採算を考える際は、売上高や粗利だけでなく、その顧客へ商品・サービスを提供するために必要な物流、注文処理、営業、サポート等のコストまで確認することが重要です。
本記事では、このような顧客別のサービスコストをCost-to-Serveとして整理し、顧客別採算を営業・物流・取引条件の改善や経営資源配分へつなげる方法を解説します。
売上ランキングだけでは顧客の収益性は分からない
売上ランキングは、どの顧客と大きな取引をしているかを見るには有用です。
一方、顧客別の収益性を判断するには、売上だけでは情報が不足します。
顧客ごとに、値引率、注文サイズ、配送条件、個別対応等が異なるためです。顧客別収益性分析では、顧客ごとの収益だけでなく、顧客関係を維持するために生じる販売・サービス・支援等のコストを把握する考え方があります(van Raaij et al., 2003)。
したがって、「売上1位だから最重要顧客」と直接結論付けるのではなく、売上、利益額、利益率、経営資源の消費量を分けて確認する必要があります。
顧客別採算では何を見るべきか
最初に確認するのは顧客別売上と粗利です。
説明を単純化すると、顧客別売上から値引・返品等と商品・サービスの直接原価を差し引くことで、顧客別粗利を整理できます。
しかし、そこで分析を止めると、顧客ごとに異なる注文処理、物流、営業活動、サポート等の負荷は見えません。
日本の管理会計研究でも、顧客別売上総利益に加え、注文獲得、注文履行、売上債権回収、アフターサービス等の活動原価を顧客へ結び付けて顧客別収益性を測定する考え方が示されています(小泉, 2009)。
本記事では、こうした顧客へ商品・サービスを提供するために発生する活動コストを、広くCost-to-Serveとして整理します。
売上1位なのに利益率が低い架空例
説明用の架空BtoB企業で、顧客Aと顧客Bを比較します。
顧客Aは年間売上が社内1位で、粗利額も大きい顧客です。一方で、注文は少量・多頻度で、配送回数や急ぎ対応が多く、営業訪問や問い合わせ対応にも多くの時間を使っています。
顧客Bは顧客Aより売上が小さいものの、一定量をまとめて発注し、定期配送が中心で、営業・サポート負荷も比較的小さいとします。
この場合、売上ランキングでは顧客Aが1位です。粗利額でも顧客Aが上位になる可能性があります。
しかし、注文処理、配送、営業対応、個別対応等まで含めて見ると、顧客Aの利益率が低いという結果になることがあります。
ここで重要なのは、顧客Aを「悪い顧客」と判断することではありません。なぜ採算が低下しているのかを分解し、改善できる取引条件や業務プロセスがないか確認することです。
Cost-to-Serveとは何か
Cost-to-Serveは、ある顧客・顧客群・チャネルへ商品やサービスを提供するために必要となる活動コストを捉える考え方です。
Cost-to-Serveを取り入れることで、製品原価だけを見る場合より、顧客サービス活動を含めた収益性を詳細に把握できる可能性があります(Guerreiro et al., 2008)。
どの活動までCost-to-Serveへ含めるかは、分析目的や企業の管理会計方針によって変わります。
重要なのは、最初から全社費用を1円単位で顧客へ配賦することではなく、「顧客によって明らかに異なる活動負荷は何か」を把握することです。
顧客別採算を分析する7つのステップ
1. 顧客別売上を統一する
顧客コード、集計期間、売上の定義をそろえます。営業管理と会計で顧客名・売上基準が異なる場合は、最初に対応関係を整理します。
2. 値引・売上原価から粗利を整理する
売上だけでなく、値引、返品、商品・サービスの直接原価等を確認し、顧客別粗利を把握します。
3. 顧客固有の物流・配送活動を整理する
注文件数、1回当たり注文量、出荷件数、配送頻度、緊急配送、再配送等を確認します。同じ売上でも、100回に分けて配送する場合と10回で配送する場合では業務負荷が異なる可能性があります。
4. 営業・サポート工数を整理する
訪問、商談、見積作成、個別資料、問い合わせ等を確認します。
初期段階から正確な分単位の工数データがなくても、商談回数、見積件数、問い合わせ件数等をProxy、つまり負荷を表す代替指標として利用できる場合があります。
5. その他のCost-to-Serveを整理する
返品、クレーム、請求変更、債権回収等、顧客によって負荷が大きく異なる活動があれば追加します。
Activity-Based Costingでは、活動とそのCost Driverを定義し、資源消費を顧客等の原価計算対象へ対応させる考え方があります(小泉, 2009)。
6. 顧客別採算と売上順位を比較する
売上順位だけでなく、利益額、利益率、Cost-to-Serve、営業・物流負荷等を並べます。
利益率が低くても絶対利益額が大きい顧客もあるため、一つの指標だけで順位付けしないことが重要です。
7. 原因別に改善アクションを整理する
採算が低い理由を、顧客属性ではなく取引条件・業務構造まで分解します。
| 採算低下の要因 | 確認・改善候補 |
|---|---|
| 小口多頻度配送 | 発注ロット、締め時間、配送頻度等を確認する |
| 値引率が大きい | 価格・契約条件と提供価値を確認する |
| 営業工数が大きい | 対応範囲、営業プロセス、定例頻度等を確認する |
| 個別仕様が多い | 標準化、対応範囲、追加料金等を検討する |
| 返品・再配送が多い | 発生原因を整理し業務プロセスを見直す |
売上上位10社について、売上・粗利の横に「年間注文件数」「配送件数」「営業対応時間」の3項目だけ並べてみてください。
最初から精緻な原価計算を行わなくても、売上順位と経営資源を多く消費している顧客が一致しているかを確認できます。
どこまでコストを顧客へ紐付けるべきか
顧客別採算分析で悩みやすいのが、間接費をどこまで顧客へ配賦するかです。
顧客別収益性分析には、収益と顧客関係に伴うコストを顧客または顧客セグメントへ対応させる考え方があります(van Raaij et al., 2003)。ただし、意思決定のための分析で、すべての本社共通費を機械的に顧客へ割り当てる必要があるとは限りません。
例えば配送回数や営業工数のように、顧客との取引によって発生量が変わる活動は、顧客別に捉える意味があります。
一方、顧客との取引量と直接的な関係が薄い共通費まで恣意的に配賦すると、分析結果が配賦ルールに左右されます。
「何を判断するための採算なのか」を先に決め、その意思決定に必要なコスト範囲を定義する方が実務的です。
現在の採算と継続性・将来価値を分けて考える
現在の利益率が低いからといって、その顧客との関係価値が必ず低いとは限りません。
新規取引の立ち上げ直後で営業工数が多い、今後取引拡大が見込まれる、戦略的な共同開発先である、といったケースもあります。
そこで、現在の顧客別採算であるCurrent Profitabilityと、継続性・成長可能性・戦略的重要性等のFuture / Strategic Valueは別軸で評価します。
現在利益と将来価値を一つの曖昧な「優良顧客スコア」に混ぜるより、「現在はどの程度採算が取れているか」と「将来的にどのような意味を持つか」を分けて議論する方が、判断根拠を明確にしやすくなります。
採算が低い顧客に対して何を見直すか
顧客別採算分析の目的は、不採算顧客を機械的に切り分けることではありません。
まず「なぜ採算が低いのか」を確認します。
- 価格・値引条件に原因があるのか
- 発注ロットが小さいのか
- 配送頻度が高いのか
- 緊急対応が多いのか
- 営業・サポート範囲が広すぎるのか
- 個別仕様が多いのか
- 返品・再配送が発生しているのか
原因が分かれば、価格改定以外にも、配送日の集約、最低発注数量、発注方法の標準化、定例頻度、サービス範囲等を見直せる可能性があります。
Cost-to-Serve分析を顧客収益性の把握へ利用し、その結果を商取引やサービス活動の見直しへつなげる考え方も報告されています(Guerreiro et al., 2008)。
顧客別採算分析チェックリスト
| 確認項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 売上 | 売上だけで顧客を評価していないか |
| 粗利 | 値引・返品・直接原価を反映しているか |
| 注文 | 注文件数と1回当たり注文量を確認したか |
| 物流 | 配送件数、緊急配送、再配送を確認したか |
| 営業 | 商談・訪問・見積等の負荷を確認したか |
| サポート | 問い合わせ・個別対応等を確認したか |
| Cost-to-Serve | 顧客ごとに異なる活動コストを確認したか |
| 共通費 | 合理性の低い一律配賦をしていないか |
| 比較 | 売上、利益額、利益率を分けて確認したか |
| 原因 | 採算悪化を取引条件・業務構造まで分解したか |
| 改善 | 価格以外の改善策も検討したか |
| 将来価値 | 現在採算と将来・戦略価値を分けて確認したか |
まとめ
売上上位顧客は、企業にとって重要な取引先であることが多い一方、売上順位だけでは顧客ごとの実際の収益性までは分かりません。
顧客別採算を把握するには、売上と粗利に加え、注文処理、物流、営業、サポート等のCost-to-Serveを整理し、顧客ごとの経営資源消費を確認します。
そのうえで売上、利益額、利益率を分けて比較し、採算が低い場合には値引、発注ロット、配送、営業活動、個別対応等のどこに原因があるのかを確認します。
重要なのは、「採算が悪い顧客を探す」ことではなく、「どの取引条件や業務プロセスを変えれば、顧客との関係を維持しながら採算を改善できるか」を判断できる状態にすることです。
SCI総合研究所株式会社のRASHINRAでは、顧客別売上だけでなく、原価、粗利、営業工数、物流・業務データ等を組み合わせ、どの顧客・案件が利益へ貢献しているのか、どこで経営資源を多く消費しているのかを整理します。
「売上上位顧客へ営業資源を集中しているが妥当か分からない」「顧客別粗利は見えるが物流・営業工数まで含めた採算が分からない」「どの取引条件から見直すべきか整理したい」といった段階から、分析と意思決定の論点を整理できます。
参考文献
- van Raaij, E. M. et al. 2003. The implementation of customer profitability analysis: a case study. Industrial Marketing Management. Vol. 32. Issue 7. pp. 573-583. DOI: 10.1016/S0019-8501(03)00006-3.
- Guerreiro, R. et al. 2008. Cost-to-serve measurement and customer profitability analysis. The International Journal of Logistics Management. Vol. 19. Issue 3. pp. 389-407. DOI: 10.1108/09574090810919215.
- 小泉友香. 2009. 顧客別収益性測定モデル―活動基準原価計算アプローチ―. 管理会計学. Vol. 17. Issue 1. pp. 57-68. DOI: 10.24747/jma.17.1_57.