故障データが少なくても予兆保全はできる?正常データから始める方法

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製造設備の予兆保全を検討したものの、「過去5年間で故障が5件しかない」「正常時のセンサーデータばかりで、故障データがほとんどない」と分かり、プロジェクトが止まってしまうことがあります。

機械学習による故障予測と聞くと、大量の正常データと故障データを用意し、それらを学習させるイメージを持ちやすいかもしれません。しかし、適切に保全されている設備では故障そのものが稀であり、正常データに対して故障データが極端に少なくなることは珍しい問題ではありません。製造業では、このようなクラス不均衡が故障検知や予兆保全の代表的な課題として指摘されています(de Giorgio et al., 2023)。

一方で、「故障データが少ない=予兆保全について何もできない」わけでもありません。

重要なのは、故障データが少ない状態で無理に「いつ故障するか」を予測しようとするのではなく、現在のデータ量に合わせて分析目的を設定することです。正常状態を把握し、通常と異なる変化を検知することから始める方法もあります。

本記事では、5年間で5件しか故障していない架空設備を例に、故障データが少ない場合に何を分析できるのか、異常検知と故障予測は何が違うのか、どのように予兆保全を小さく始めればよいかを解説します。

予兆保全で「故障データ不足」が起こるのは珍しくない

予兆保全では、設備の振動、温度、電流、音、圧力、稼働状態などを継続的に記録し、その変化から設備状態を把握します。

ところが、設備が安定して稼働しているほど、得られるデータの大部分は正常状態になります。故障が発生する前に部品交換や保全を実施していれば、故障に至るまでのrun-to-failureデータを取得する機会も限定されます。

近年の予兆保全に関するレビューでも、実産業では故障まで継続して取得されたデータが少ないことや、正常データに比べて故障データが少ないことが主要なデータ課題として整理されています(Nieminen et al., 2026)。

したがって、「故障データが大量に蓄積されるまで何もできない」と考えると、状態監視を始める機会を逃してしまう可能性があります。

5年間で故障5件なら何が難しいのか

ここでは、説明のために5年間稼働している設備で5件の故障が発生したケースを考えます。

設備からは温度、振動、電流、負荷などが継続的に記録されているとします。高頻度でセンサーを取得していれば、5年間で数十万行、数百万行のレコードが存在することも考えられます。

しかし、仮に100万行のセンサーデータがあったとしても、独立した故障経験が5件しかないのであれば、「100万件の故障教師データがある」という意味にはなりません。

FAILURE EVENT TIMELINE
1年目F01
2年目F02
3年目F03
4年目F04
5年目F05
センサーレコードは大量に存在しても、独立した故障イベントは5件。レコード数と故障経験数を分けて考える。

同じ故障の直前30日を1時間ごとに区切れば多数のデータ点を作れますが、それらは同一故障に由来する互いに関連したデータです。独立した故障事例そのものが増えたわけではありません。

さらに5件の故障がすべて同じ原因とは限りません。例えばF01とF03が軸受関連、F02がセンサー異常、F04が潤滑関連、F05が電気系統だったとすれば、「故障」という一つのクラスにまとめて学習すること自体が適切でない可能性があります。

このような状況で、正常・故障の2分類モデルだけを最初から目標にすると、データ量と分析目的が合わなくなることがあります。

異常検知・故障診断・故障予測は分けて考える

予兆保全を検討するときに重要なのが、「いつもと違う状態を見つけること」と「故障を予測すること」を区別することです。

MAINTENANCE ANALYTICS LEVEL
異常検知
いつもと違うか

正常状態からの乖離

状態変化の監視

故障診断
何が悪いか

故障モードの識別

原因候補の整理

故障予測
いつ問題になるか

故障時期の推定

劣化傾向・残存寿命等

故障データが十分にない場合でも、正常データが豊富に存在するなら、「通常状態がどのような範囲にあるか」を学習し、そこから外れた状態を検出する方法があります。

このように正常クラスを中心に学習するone-class classificationは、異常データが希少、またはラベル付けが難しい状況で利用される枠組みです。時系列データに対するone-class分類も、製造業を含む異常検知用途で研究されています(Zaitouny et al., 2026)。

ただし、正常状態から外れたことが分かっても、その設備が故障するとは限りません。設備負荷の変更、段取り替え、製品変更、外気温、センサー異常などでも通常とは異なる値になる可能性があります。

故障データが少ない場合に検討できる4つの方向性

1. 正常状態からの乖離を監視する

正常稼働時の振動、温度、電流などを蓄積し、通常時の範囲やパターンを把握します。その後、正常状態から大きく離れた状態を検出し、点検対象を絞ります。

この方法では「故障する」と断定するのではなく、「通常と異なるため確認した方がよい設備・時間帯」を抽出することが主な目的になります。

2. 時系列の変化やドリフトを見る

単発の異常値だけでなく、振動や温度が数週間・数か月かけて徐々に変化していないかを確認します。

設備の経年変化や摩耗は、一点のしきい値超過よりも長期的な傾向として現れる場合があります。正常時のばらつきと継続的な変化を区別して確認することが重要です。

3. 現場のルール・しきい値と組み合わせる

機械学習だけを利用する必要はありません。設備メーカーの管理値、現場で利用している警報値、保全担当者が経験的に確認している指標と、データ分析による状態変化を組み合わせる方法もあります。

予兆保全の目的は高度なモデルを作ることではなく、点検・継続監視・部品交換等の判断を改善することです。

4. 故障・保全・アラーム履歴を継続して蓄積する

故障が少ない設備では、今後発生するイベントを分析可能な形で残しておくことも重要です。

  • 故障日時
  • 故障モード
  • 交換した部品
  • 点検結果
  • アラーム履歴
  • 保全作業内容
  • 故障直前の運転条件

をセンサーデータと対応付けられるようにしておけば、イベントが増えるにつれて分析できる範囲を広げられます。

正常データを使う場合にも注意点がある

正常データを大量に取得できていても、そのデータを一つの「正常状態」として扱えるとは限りません。

正常運転にも複数のモードがある

低負荷運転と高負荷運転、立ち上げ時と定常運転、製品Aと製品Bの製造時では、正常な振動や電流値が異なる場合があります。

これらを区別しなければ、高負荷時の正常値を異常と判定するなど、誤検知が増える可能性があります。

センサー異常と設備異常を区別する

突然値が変化した場合でも、設備ではなくセンサーの故障、通信断、取付位置のずれ等が原因である可能性があります。

したがって、異常度だけで設備故障を断定せず、現場情報や他センサーとの整合性を確認する必要があります。

故障5件は「使えないデータ」ではない

故障件数が少ない場合でも、その5件を捨てる必要はありません。

まず、それぞれについて故障発生前の振動、温度、電流、アラーム等がどのように変化していたかを確認します。同じ兆候が複数の故障で確認できれば、今後監視する候補指標になります。

一方、5件すべての故障モードが異なるのであれば、「5件の故障データ」とまとめるより、故障ごとに個別の現象として整理する方が有用な場合があります。

また、同じ故障イベントから作成した時間窓を学習用と評価用へランダムに分けると、非常によく似たデータが双方へ混入し、実運用より性能を高く見積もる可能性があります。故障イベント、設備、期間などを考慮して検証データを分離することが重要です。

現在のデータ量によって目標を変える

データの状況検討しやすい分析主な目的
正常データが中心正常範囲把握、異常検知、状態変化監視点検対象を絞る
故障が数件故障前後比較、兆候探索、異常度との照合監視指標候補を探す
同一故障モードが蓄積故障分類、発生確率等のモデル検討故障モード識別を高度化する
劣化から故障まで継続記録劣化傾向分析、故障時期・残存寿命等の検討保全時期の判断を支援する

「故障データが何件あれば予兆保全ができるか」という一律の数字だけで判断することは困難です。故障モードの種類、設備間のばらつき、センサー品質、運転条件、分析目的によって必要なデータ量は変わります。

ANALYTICS ROADMAP
基準状態を知る

正常状態の可視化

運転モード整理

変化を見つける

異常検知

ドリフト監視

現象を結び付ける

故障・保全履歴照合

故障モード整理

予測へ広げる

分類・予測の検討

保全時期判断

追加で何を取得するべきか

既存データを確認しても設備状態を十分に捉えられない場合には、追加計測を検討します。

ただし、「予兆保全にはセンサーが必要だから」と先に大量のセンサーを取り付けるのではなく、どの故障モード・状態変化を監視したいかを整理してから計測項目を決める方が合理的です。

  • 振動
  • 温度
  • 電流・電力
  • 音
  • 圧力・流量
  • 回転数
  • 設備負荷

などの候補から、対象設備の故障メカニズムと既存データを踏まえて必要なものを選びます。

故障データが少ない設備こそ、小さく始める

故障データが少ない段階で、全設備を対象とした大規模な予兆保全システムを最初から構築する必要はありません。

  1. 停止時の影響が大きい設備を1台選ぶ
  2. 既存のセンサーデータ、稼働ログ、保全履歴を確認する
  3. 正常時の運転モードと基準状態を整理する
  4. 過去の故障5件と時系列データを照合する
  5. 状態変化を確認できる指標を探す
  6. 必要なら追加計測を行う
  7. 点検判断に使えるか小規模に検証する

という流れで進める方法があります。

故障履歴が少ない場合は、いきなり故障予測モデルを作るのではなく、現在保有している正常時のセンサーデータ、故障日時、保全履歴、運転条件を一度横並びにすると、どこまで分析できるかを整理しやすくなります。

予兆保全を始める前のデータ確認チェックリスト

確認項目確認する内容
故障イベント数独立した故障が何件あるか
故障モード各故障の原因・部位は同じか
故障日時センサーデータと正確に対応付けられるか
故障前データ発生前の一定期間が保存されているか
正常期間安定稼働時のデータが十分にあるか
運転モード停止・低負荷・高負荷等を区別できるか
負荷条件生産量や速度等の条件が記録されているか
保全履歴点検・部品交換をデータと対応付けられるか
データ欠損センサー停止・通信断等がないか
追加計測現在のデータで設備状態を捉えられるか

まとめ

故障データが少ない設備でも、予兆保全に向けたデータ活用を始められる場合があります。

ただし、故障データが数件しかない状態で、最初から高精度な故障分類や故障時期予測を目標にするのは適切でない場合があります。

  1. センサーレコード数と独立した故障イベント数を区別する
  2. 故障モードを整理する
  3. まず正常状態を把握する
  4. 正常状態からの変化を監視する
  5. 異常検知と故障予測を区別する
  6. 故障・保全履歴を継続して蓄積する
  7. 不足する場合のみ追加計測を検討する
  8. 重要設備から小さく検証する

という順序で進めると、現在のデータ量に合った予兆保全の目的を設定しやすくなります。

SCI総合研究所株式会社のMIRASENTでは、既存のセンサーデータ、稼働ログ、保全履歴等を確認し、現在のデータからどのような設備状態の把握が可能か、追加計測が必要かを整理しています。

故障データが少なく、いきなり故障予測モデルを構築するべきか判断できない場合も、正常データを含めた現在のデータから分析可能性を確認できます。

参考文献

  • de Giorgio, A., Cola, G. and Wang, L. 2023. Systematic review of class imbalance problems in manufacturing. Journal of Manufacturing Systems. Vol. 71. pp. 620-644. DOI: 10.1016/j.jmsy.2023.10.014.
  • Meitz, L. et al. 2025. A Literature Review Framework and Open Research Challenges for Predictive Maintenance in industry 4.0. Computers & Industrial Engineering. Vol. 206. Article 111193. DOI: 10.1016/j.cie.2025.111193.
  • Nieminen, W. et al. 2026. Synthetic Data for Predictive Maintenance: A Systematic Review and Framework for Industry 4.0 Applications. Journal of Intelligent Manufacturing. DOI: 10.1007/s10845-026-02795-6.
  • Zaitouny, A. et al. 2026. Time series one class classification: a systematic review of methods, applications, and challenges. Artificial Intelligence Review. DOI: 10.1007/s10462-026-11692-6.